ダイアローグ200909

知識創造の原点は「ケア」にあり


[この本に学ぶ]
『ナレッジ・イネーブリング
 ゲオルク・フォン・クロー/一條和生/野中郁次郎 著
東洋経済新報社(2001年) 


ピーター・ドラッカーが「現代の名著」と評した『知識創造企業』(野中郁次郎+竹内弘高著)が刊行されたのが1995年(日本語版は1996年)。本書『ナレッジ・イネーブリング』(ゲオルク・フォン・クロー+一條和生+野中郁次郎著)はその5年後の2000年(日本語版は2001年)に発表された、いわば『知識創造企業』の“実践版”。前著が、知識創造のコンセプトの解説に焦点があてられているのに対し、本書では、ビジネスの現場で実際にどのように知識を創り出したらいいのかの実践的なガイドが詳細に綴られている。「ナレッジ・イネーブリング(enabling)」とは、「知識創造の促進を可能とする組織活動」という意味だ。

本書は、“実践的ガイド”とはいうものの、いわゆる“ノウハウ本”とは大きく異なり、前著の理論に則った精緻な実践手法が展開されるもの。ビジネス現場での実用性・有用性はきわめて高く、前著に劣らぬ、いや筆者(馬渕)の個人的な感想でいえば前著をも凌ぐ名著だと確信する。本書が明らかにしてくれた“実践理論”が広く日本のビジネス現場に普及することを願いたい。

そんな本書が掲げるいちばんのキーワードが「ケア」。ケアとは「人が学ぶのを助けることであり、重要な出来事や結果に気づくように支援することであり、互いの洞察を共有すると同時に個人的知識を培うことである」と定義され、このケアにあふれる豊かな人間関係こそが組織における「知識創造」をenableするための最大の要件であることが、一貫して強調されている。筆者(馬渕)が、本書をきわめて優れた実用書だと感じる最大の理由は、この点にあるのかもしれない。

知識創造にとって「ケア」がなぜそれほど重要のなのか? 「知識創造とケア」の関係について述べた以下のくだりには深く首肯させられた。

組織内の人間関係は、高いケアに支えられたものから低いケアに支えられたものまで、実にさまざまである。高いケアとは、信頼、積極的な共感、進んで助け合うこと、寛大な判断、勇気が組織内に十分ある状態を指し、低いケアとは、それらが欠如している状態である。低いケアのもとでの知識創造は、たいていの場合、個人レベルでの知識の「押収」が中心となるし、社会レベルでの知識創造は「取引」によって成立する。しかし、高いケアのもとでは、知識創造プロセスは強力な人間関係を反映するものになる。個人の知識創造は「提供」するプロセスとなる。またグループは「内在化」を通じて社会的に知識を創造する。…内在化は互いにビジョンを共有しあうよい関係の上に成り立つものであり、暗黙的なアイデアや感情から多くのものを引き出すことに貢献する。ケアが低い場合は、暗黙知がイノベーションの源泉になることはほとんどない。[P.93-94]

そこで思い出すのが、米マサチューセッツ工科大学ダニエル・キム教授の、有名な「組織の成功循環モデル」。同モデルでは、組織の持続的な成功を生み出すカギは[関係の質>思考の質>行動の質>結果の質]を向上させる循環的プロセスにあるとするが、ここで注目すべきは、循環の原点には「関係の質の向上」があると説いた点にある。知識創造の原点としての「ケア」とまさに符合する卓見といえよう。

私たちが生きる現代社会は経済のマネー化がますます進み、知識に限らず、暮らしを支えるの多くの部分は「交換(取引)」によって成り立っている。そしてこのことは、本書の知見に則れば、私たちの社会がとても「低いケア」状態の上に成り立っていることの現れだといえよう。翻って考えるに、「スマホが招く学力低下」といった今日的な社会問題。その背景に横たわるのもまた、「低いケア」という怖ろしい日常なのかもしれない。

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第1章 ナレッジ・マネジメントからナレッジ・イネーブリングへ
  • ナレッジ・イネーブリング: 知識創造を促進させる組織活動。組織または地理的な境界や文化の壁を越えて知識を共有し、会話や人間関係を促進すること。「感情に基づく知識」という新しい解釈に基づいており「組織のケア」を土台としている。[5]
  • ナレッジ・アクティビスト: 社会全般を広く視野に入れたビジョンを抱えており、実務にも通じている。企業外部の働きと企業内部の知識活動を結びつけ、知識をより有効に活用するようにと働きかける。また、知識を持つ社内外の人々を率先して一つにまとめ、その知識をさらに効果的に利用できるように働きかける。スケールの大きい夢想家。[6]
  • ナレッジ・イネーブラー: 知識活動を起こす役割。①ナレッジ・ビジョンの組織内への浸透、②従業員間の会話のマネジメント、③ナレッジ・アクティビストの動員、④適切な知識の場作り、⑤ローカル・ナレッジのグローバル化。この5つの要素からなるイネーブリングのフレームワークの中で、障害(個人起因/組織起因)の発生を念頭に置きながら、戦略のもつ重要な役割を分析。[7]

  • 知識のミクロ・コミュニティ: 組織内の小グループ。メンバーの知識、価値観、目標についてお互いに共有する「場」。[7]
  • 個人の関係性作り: 知識創造が最終的に成功するかどうかは、組織メンバーが知識活動をつうじてどのような人間関係を築けるかにかかっている。[8]
  • ケア: マネジャーは「ケア」を重要課題としなければならない。[8]

  • 知識とは: ①知識は正当化された真なる信念である。知識とは現実を作り上げることであって、抽象的で普遍的な性質をもつ絶対的な真実でもなく、概念規定でもない。知識創造では感情や信念がきわめて重要である。②知識には形式知と暗黙知がある。暗黙知は、場面によって変化し、使われる場に規定されているという特質をもっているからこそ、イノベーションの強力なツールになりうる。③効果的な知識創造には、イネーブリング・コンテクスト(知識創造の場作り)が不可欠である。知識は「場」に埋め込まれており、知識創造にはコンテクスト、つまり「知識を生み出す場」が不可欠である。④知識創造には主に5つのステップがある。1)暗黙知の共有、2)コンセプトの創造、3)コンセプトの正当化、4)プロトタイプの製作、5)知識の組織全体での共有[9]
  • ゴール: どんな仕事であっても共通のゴールは、チームの知識を具体的に表現することである。[12]
  • 知識創造: 知識創造とは、社会的なプロセスであると同時に、個人的なプロセスでもある。各個人は、他人の前で自分の信念を正当化するという大きな挑戦に直面しなければならない。だから知識創造のプロセスは壊れやすい。[13]

  • ナレッジ・イネーブリング: 知識創造は壊れやすいものなので、さまざまな組織活動を通じて注意深く支え、さまざまな障害を乗り越えて実現しなければならない(⇔ポリティカルコレクトネスに流れる現代)。ナレッジ・イネーブリングは、慎重な検討に基づくものもあれば、予期せぬ形で生まれてくるものもある。[13]
  • ナレッジ・イネーブラー: ①ナレッジ・ビジョンの組織内での浸透:知識創造活動を組織全体に合法化するために、②従業員間の会話のマネジメント:知識創造はつねに互いにケアしあう状況の中でおきる、③ナレッジ・アクティビストの動員:アクティビストは創造された形式知のなかに潜んでいる重複やシナジーを発見して、各コミュニティの活動が組織全体のビジョンと整合性を保てるようにする。④適切な知識の場作り:イネーブリング・コンテクスト、つまり「場」を設けるためには、組織内の人々が互いにケアしあう関係性を作り上げねばならない。⑤ローカル・ナレッジのグローバル化[14]
  • ナレッジ・ワーカー: ナレッジ・ワーカーは、思索家、チーム・プレーヤー、チーム・リーダー、批評家、意思決定者の全要素をもっている必要がある。ナレッジ・ワーカーの最も大切な性質は人間であるということである。[20]
第2章 ナレッジ・マネジメントの限界 なぜいまだにこれほど多くの障害が存在するのか
  • 知識創造に対する個人の障害: 個人の障害2種、①知識を受け入れる容量の限界、②自己イメージの変化に対する恐怖。[36]
  • 同化と適応: 同化=五感を通じて得られたデータをすでに蓄積された自分の経験に統合させようとするプロセス。適応=新しい入力信号を受けて、それが既知のものとは異なると認識された場合に、意味づけを行うプロセス[37]
  • 個人的障害: 適応があまりにも困難な場合、人は罠にはまったように感じ、心のなかに新しい知識に対する強固なバリアーができてしまい、受け入れようとしない。適応が困難だと認識すればするほど、ますますストレスを感じて不安になる。[37]

  • 自己イメージ: 新しい知識は自己イメージ破壊の脅威ともなりうる。適応するためには自分も変化しなければならない。知識は自己イメージに密接に結びついているため、人は往々にして新しいものを拒絶する。[38]
  • 多様性: グループメンバーの知識が多様性に富んでいれば、創造性の源泉が生まれ、業務も成功する場合があるが、障害ともなる。「心理的な脱退」が生じる。[40]
  • 知識創造に対する組織の障害: ①共通言語の必要性:言語は人の学習や思考の鍵。組織で知識を共有するためには、暗黙知を形式知化し、共通言語を持つ必要がある。

  • ②組織のストーリー:組織のストーリーは組織のメモリー、物事のあるべき姿に関する常識となり、個人の行動を規制する。ストーリーを通じて人々は他者との付き合い方や組織の価値体系を理解する。その一方で、ストーリーにはそれにふさわしいアイデアしか含まれていないので、新しい知識を創造する際に障害となる。③業務手順: ④企業パラダイム:企業パラダイムや世界観は、ビジョン、企業理念、コア・バリューによって構成されている。組織内の個人的知識が妥当かどうかを決めるのはパラダイム。パラダイムによって承認された個人的知識は、組織内の多くのメンバーによって素早く受け入れられる。[40]
  • ナレッジ・マネジメントの落とし穴: ①ナレッジ・マネジメントは、入手、測定が容易な情報に依存している。②ナレッジ・マネジメントはツール作りに没頭してしまう、③ナレッジ・マネジメントの成否はナレッジ・オフィサーにかかっている[46]
  • ①情報と知識: 情報とはコンテクストに埋め込まれているデータである。情報は意味を含んでおり、知識の基盤となる。だが、知識はさらに深い意味をもっている。知識は集団や個人の信念を含み、行動と密接に結びついている。知識創造を促進する人間的スキルは、データベースよりも関係性やコミュニティの確立に密接に関係しており、企業は感情的な側面をもつ知識や社内的相互作用を重視したトレーニングに投資をする必要がある。[48]
第3章 組織におけるケア なぜイネーブリング・コンテクストは重要なのか
  • ケア: ケアとは人が学ぶことを助けることであり、重要な出来事や結果に気づくように支援することであり、互いの洞察を共有すると同時に個人的知識を培うことである。[81]
  • 組織メンバー間のケアはすべての知識創造プロセスの鍵となる潤滑油であるが、過当競争によって事実上失われてしまう。…過当競争というコンテクストにおいて、組織は適応的というよりも硬直的に、能動的というよりも受動的になり、職場は好ましくない状況に陥ってしまう。[80]
  • 知識はコンテクストに基づくもので、関係性のなかにあると信じている。知識はダイナミックな社会的相互作用を通じて創造され、個人の価値体系に深く根差した主観的なものである。知識は本質的には人間の行動と不可分であり、知識創造プロセスは誰がどのように行動するかによって左右されるのである。[84]

  • イネーブリング・コンテクスト: 物理的空間、仮想的空間、メンタルな空間でもあるし、さらにまたそれらが組み合わされた空間なのである。そしてそれは何よりも、参加者のケアと信頼とで成り立っている相互作用のネットワークを指している。[84]
  • ケアの特徴: ①相互信頼、②積極的な共感、③進んで助け合うこと、④寛大な判断、⑤勇気[85]
  • ①相互信頼: 信頼とは双方向のもの。自分に対する信頼と評判を高めるためには、相手が意外に思うようなことをせず、一貫した態度を示さなければならない。そうすれば、やがて相手の成長を助けることになる。

  • ②積極的な共感: 積極的な共感とは、自ら進んで相手を理解しようとすること。積極的に相手の状況を尋ね、注意深く見守りながら、相手を気遣うこと。
  • ③進んで助け合うこと: 助ける意思があるだけではだめで、手助けを求める人が手助けする人に容易に接近できることが大切。
  • ④寛大な判断: 組織のメンバーへの支援は、相手への寛大な態度を伴っていなければならない。

  • ⑤勇気: 組織内における人間関係のケアは、メンバーが互いに示す勇気に反映される。
  • 知識創造とケア――2つのコンテクスト: <低いケア>のもとでの知識創造は、個人レベルでの知識の「押収」が中心となるし、社会レベルでの知識創造は「取引」によって成立する。しかし<高いケア>のもとでは、個人の知識創造は「提供」するプロセスとなる。またグループは「内在化」を通じて社会的に知識を創造する。[93]
  • 内在化: あるコンセプトを内在化する、つまりコンセプトのなかに入り込んでいくということは視点の劇的な移行を伴う。あるコンセプト「を」見ている状態から、あるコンセプト「で」見る状態への移行である。あるミクロ・コミュニティのメンバーが暗黙知を共有するためには、他のメンバーの経験、視点、コンセプトを内在化していかなければならない。それはつまり、自分自身の関心事にコミットメントすることをやめて、グループの関心事にコミットメントすることである。[97]

  • 職場での内在化: ①ナレッジ・ビジョンを再確認する、②暗黙知の源泉を発見する、③暗黙知がナレッジ・ビジョンにもたらしうるインパクトを洗い出し、暗黙知の源泉に接近できるかどうかを測る、④暗黙知の源泉になる人々とケアしあう関係を築く、⑤ケアに基づきながら、相手と共通の経験を積んでいく、⑥ステップ4や5を何度も繰り返してみる、⑦内在化の成果を評価する[100]
第4章 戦略と知識創造 現在のサバイバル戦略と未来への前進戦略
  • 戦略と知識創造: 知識の意義を戦略のなかでしっかりと位置づけておくことはきわめて重要。定量的な目標のみに焦点を定めた戦略は、新しい市場や新しい製品領域の進出へはつながらない。企業戦略や実際の経営では、秩序と混沌との間でバランスをとらなければならないことが多い。知識にはつねに何らかの不確実性が伴う。[118]
  • 戦略のフレームワーク: ①サバイバル戦略=現在の成功や業績を維持するための知識に焦点を当てる、②前進戦略=未来の成功や業績の改善を重視する。[121]
  • 知識創造には前進戦略が不可欠。しかしマネジェーは、既存のマーケット・セグメントのなかで強力な競争相手に勝つために起こす「即座の行動につながるような情報」を好む傾向があるため、サバイバル戦略の方が検討されることが多い。[124]

  • 競争優位の源泉: 競争優位は、①規模の経済、範囲の経済、要素費用などの低いプロセス・コストや、②顧客にとって価値のあるユニークな製品の性質や特徴、ユニークな地理的ポジショニング、ユニークな技術やサービス、製品の提供といった差別化から生まれる。サバイバル戦略は、現在の競争優位の源泉を活用すること、前進戦略は競争優位の将来の源泉を活用すること。[126]
  • コンセプトの正当化: 知識は人間と不可分であるので、ある種、感情的である。そのためにコンセプトの正当化では、個人の経験や感情に配慮した基準も検討に加えるべきである。コンセプトは共有された暗黙知を表現するものであるが、暗黙知とまったく同一というわけではない。真、善、美は、本当に革新的なものを創造するうえで重要な役割を果たす。[149]
第5章 第一のイネーブラー ナレッジ・ビジョンの浸透
  • ナレッジ・ビジョン: ①ナレッジ・ビジョンは組織メンバーが現在、活動している世界に関するメンタル・マップを示すものでなくてはならない、②ナレッジ・ビジョンは組織のメンバーが本来活動すべき世界のメンタル・マップを示すものでなければならない、③ナレッジ・ビジョンとは、組織メンバーが探求し創造する必要のある知識が何かを具体的に示さなければならない[176]
  • ナレッジ・ビジョンは、ミッション・ステートメントや企業価値、経営哲学に関する文書、もしくは戦略的アウトラインに近い事業計画といった形式をとるかもしれない。ミッション・ステートメントは知識のアウトラインが記述されていることもあるので、ナレッジ・ビジョンとして機能する。ポイントとなるのは、マネジャーがナレッジ・ビジョンの内容を明確に語り、それをナレッジ・ビジョンと自覚してそのように名付けて呼ぶことができるか、またはミッション・ステートメントのなかに知識に関する考えを統合することができるかどうかにかかっている。[178]

  • 優れたナレッジ・ビジョンの基準:[180]
    ①企業の進む方向へのコミットメント: トップマネジメントからの強いコミットメントが必要
    ②創造性: ナレッジ・ビジョンは、広がりの大きな問いかけや仮説を集めて作るのがよい。成文化するときにはオープン・エンドにしておく。ビジョンは一種の「仕掛けられたインプロビゼーション」を促進する。メンバーは未来を築くための新しい方法を模索しながら思考を開始する。
    ③独自のスタイル: 秘訣は、自分が実現したいと願い反応を引き出すような表現を見つけること。ビジョン・ステートメントは創造性と明快な方向性との間でうまくバランスをとらなければならない。
    ④現存の知識創造システムの再構築への焦点: ナレッジ・ビジョンが過去の成功体験を超えて広がっていかなければならない。
    ⑤現行の業務システムの再構築への焦点: ナレッジ・ビジョンは仕事の仕方をどのように変化させなければならないかを示さなければならない。
    ⑥企業価値の外部伝達: ナレッジ・ビジョンは、どのような知識(そしてまたそこからもたらされる価値)を企業が探求するのか、利害関係者全員に伝えなければならない。
    ⑦競争優位確立へのコミットメント: どのようナレッジ・ビジョンであれ、その効果を確かめる試金石となるのは、ナレッジ・ビジョンが企業の競争優位の維持に貢献できているかどうかということである。

  • 「360度方式のビジョン浸透」のための5つのマネジメント・アクション:[200]
    ①参加者を確認して集め、プロセスを体系的に組み立てる:
    ②ナレッジ・ビジョンの定義と、優れたナレッジ・ビジョンの判断基準に関して、参加者間で共通理解をもつ: 共通言語をもつことが重要
    ③ビジョン・プロセスのプラットフォームとして、未来に関するストーリーを書き上げ、それを活用すること: ビジョンには会社の未来が具体的に描かれているが、未来に関するストーリーは、「未来に関するメンタル・マップ」となる。ストーリーは技術、社会、人口構成、政治システム、法律、経済、または環境など幅広い内容を含む。ストーリーはビジョン・プロセスに不可欠である。ストーリーがあれば、過去の知恵にのみ視野を限定してビジョンを作成することもなくなる。それは戦略に関する想像力豊かな議論を促す。
    ④ビジョンの浸透には十分な時間を費やすこと: ビジョンの土台となっているストーリーは有効性(ストーリーはまだ通用するか)と信頼性(未来のイメージは本当に実現しそうなのか)を高めるために常に書き直すことが必要。
    ⑤ナレッジ・ビジョンのプロセスを学習のプロセスと考える: 
第6章 第2のイネーブラー 会話のマネジメント
  • 会話の重要な役割は、ミクロ・コミュニティ内で暗黙知を共有すること。[216]
  • 会話が持つ独特のリズム: 全参加者が議論されるテーマを自分の問題と捉えるにつれて、活動から個人的な側面が失われていく。[217]
  • ソクラテスの会話の特徴: 開放性、辛抱強さ、聞く能力、新しい言葉、概念、礼儀、説得力のある議論の形成[219]

  • 会話がもつ2つの目的: ①知識の確認、②知識の創造[220]
  • 知識創造を実現する4つの指導原則: ①積極的に参加を呼び掛ける、②会話のエチケットを設ける、③会話を適切に編集する、④革新的な言葉を育てる[220]
  • 同意と理解: 議論の収斂は、「同意」と「理解」という2通りの方法で発生する場合が多い。「同意」は、捨て値で売れられる日常品のようなもの。「理解」に対する厳しい試金石とは、参加者がコンセプトを快く感じているか否かということ。コンセプトを内面化するとき、つまりしっかりと自分のものとして理解するとき、メンバーは自分自身の経験を振り返るためにそのコンセプトを使うことができるということ。[234]

  • 言語: 企業で使用される「言語」は最も重要な資産の一つ。言語は人間の世界観を表す媒体であり、世界観なしには新しい知識を創造することはできない。だから革新的なコンセプトを生み出すためには、知識創造のプロセスの間、言語は非常にダイナミックで躍動感をもたなければならない。[237]
  • 会話を促進するマネジャー: 会話とはマネジャーが監督の役割を務める劇のようなものである。マネジャーは、参加者を威嚇するのではなく、おのおののメンバーに勇気を抱かせる。彼らの間に帰属感を生み出し、会話を行わせるようにする。会話を担当するマネジャーは参加者をケアする専門家である。[246]
第7章 第3のイネーブラー ナレッジ・アクティビストの動員
  • ナレッジ・アクティビストの3つの役割:  [255]
    ①知識創造のカタリスト(触媒役): 化学反応を起こすためには触媒が不可欠。この原理と同じで、組織の変化にはカタリストに相当する人材が不可欠。
    ②知識創造イニシアチブのコーディネーター(調整役): 知識創造の具体的な取り組みを調整する人材
    ③未来予見者: すべてのミクロ・コミュニティは各自の仕事を、業務範囲を超えた大きなコンテクストで理解しておかなければならない。
第8章 第4のイネーブラー 適切な知識の場作り
  • 場: イネーブリング・コンテクストは知識創造のイネーブラーであり、「場」とは適切なコンテクストを意味している。「場」は本質的には人がさまざまなものを共有しあう場であり、知識創造の原点として機能する。「場」という概念は、実体空間、架空の空間、心のなかの空間など知識創造を取り巻くさまざまな場をあわせたものなのである。[307]
  • イネーブリング・コンテクスト: イネーブリング・コンテクストは、個人や組織が知識を創造し、知識の数を増やしていけるようなエネルギーを与える存在でなければならない。そうしたイネーブリング・コンテクストを創造する能力こそ、まさにその企業の競争優位ともいえる。[309]
  • マネジャーは次のような前提条件作りに励まなければならない。①メンバーに適度な自主性を与えること、②創造性に必要な程度のカオス、リダンダンシーの状態を作り上げること、③刺激的な環境を作り上げるために多様な人材を揃えること、④高いケアの行き届いた組織を作りあげること[310]
第9章 第5のイネーブラー ローカル・ナレッジのグローバル化

第10章 ナレッジ・イネーブリングの実践 ジェミニ・コンサルティングによる知識に対する障害の克服

第11章 エピローグ ナレッジ・イネーブリングの旅