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『フロー体験とグッドビジネスーー仕事と生きがい』
M.チクセントミハイ 著
世界思想社(2008年)
著者のチクセントミハイは、ハンガリー出身のアメリカの心理学者。人間がそのときしていることに完全に浸り、精力的に集中して完全にのめり込んでいるような状態を指す「フロー」概念の提唱者。「フロー」状態は、スポーツや遊び、芸術・創作活動などさまざまな状況の下に体験されるものだが、そうした状態を「仕事」の中で創り出すにはどうすればいいか、つまり、仕事に生きがいを見出して毎日をいきいきと楽しく過ごすためにはどうすればいいか、を解き明かしてくれるのが本書だ。
本書は決して、表層的なノウハウを説いた本ではない。その真逆で、「そもそも仕事とは何か?」という原点にまで遡って命題が解き明かされていく。主旨をかいつまんで紹介すると――。
生あるすべてのものは、生き残るために、成長し繁殖するためのエネルギーをもっと取り込みたいと願う。ゆえに人間は数十万年にわたり、狩猟採集を通じて必要なエネルギーを確保してきた――そしてこれこそが「仕事」の原点。つまり「仕事」とは本来、有機体がエントロピーによって壊されないようにするために行うもの、ということができる。
その後、人間は必要なカロリーを得るために、狩猟採集以外のさまざまな方法を開発することになるわけだが、その最初の大変革をもたらしたのが、約1万年前の「農業」。農業によって「余剰」が生み出されたことにより、それまでなかった権力構造や流通が形づくられ、そこに「仕事」の新しいカタチがどんどん生まれていった。そしてそれらは、現代に近づけば近づくほど、本来の「カロリー確保」という原点からは遠ざかったものになっていった――という次第。
こうして「生」のリアリティをどんどんと失っていった「仕事」は今日、多くの人々にとって、意味を見出しづらい退屈なもの、つまりは「フロー」が起こりにくいものとなってしまったわけだが、こうした状況に対して著者は、「それは、もうどうしようもない」と諦めるのではなく、「フローが起こらない理由」を一つひとつ取り除いてさえいけば、今日でもなお十分に得られるものだと力説する。
その具体論については本書に譲るとして、注目すべきは、ここでも表層的なノウハウにはいっさい触れることなく、そのための方法論を生命史における「進化」という文脈の下に、見事な説得力をもって解き明かしていく点。結論だけを端折っていえば、私たちが「仕事」にあって「フロー」を体験できる状況を生み出すということは、即ち自分を「進化」させることに他ならない。自分を「進化」させられることが出来るからこそ仕事が楽しくなるのだ、ということになる。
利己心を超越する能力は、おそらく人間の意識の新しい能力であり、物質的組織がある複雑さの段階に達した人間の神経システムの結果そのものである。…物質的組織がどうにかして他の存在に手を伸ばし、自身を宇宙という存在の一部としてみることができるようになったという事実は、進化の驚くべき一段階である。[P.184]ビジョンとはいまだ存在しないものの行く手の表現であり、それは組織の未来の状態を予期することである。現在のシステムを新しく、望ましい形に変えるために、ビジョンにはエネルギー(すなわち財務的、社会的、そして精神的な資本)の投入が必要である。このようにビジョンとは、自身の潜在能力を意識し始めた組織がたどりつくと思われる進化である、と定義できる。[P.186]

第Ⅰ部 フローと幸福
第1章 未来を導く
- 本書では、ビジネスの成功とより広い社会的な目標に対する責任のために、仲間に感銘を与えてきたリーダーがどのように仕事を進めているのか、すなわち、どんな志をもってやる気を起こし、理想を追求してどのような組織を発展させようとしているのかを探る。[5]
- 社会が発達するにつれて、ある特別な階層の人々が民衆の物質的な状態を改善することを約束して台頭し、その生活エネルギーを向ける一連の目標を提示する。幾千年もの間、これらのリーダーは普通、一族のもっとも優秀なハンターであり、従ってくるものたちに獲物を分け与え、つぎに見つかるであろう狩猟場についての話をして士気を鼓舞してていた。[7]
- 現在では、科学者とビジネスリーダーが、かつては貴族階級と聖職者の占めていた偉大な地位を勝ち取ったのである。[8]
- この一世紀の間、ビジネスリーダーは社会的、政治的な規制を開放して自由市場の活動を認めることが、すべての人々の生活の質の改善をもたらすことになるという説得力のある主張をしてきた。結果として、世界の動き方についての私たちのメンタルモデルは、経済学の対概念である生産と消費を、繁栄と幸福の基準とするものになった。[10]
- これまで私たちは5分間マネジャーを育成する方法を学んできた。しかし、よりよい未来を築き上げるためには、企業の頂点に立つ100年間マネジャーが必要なのである。[14]
- 創造的破壊: 「創造的破壊」は生産性への道である。しかし何が幸福を形成しているのかについてより広く見たならば、創造的破壊は、価値観の持続を考えて、なるべく避けなければならないものだろう。[21]
第2章 幸福のビジネス
- 幸福: 幸福は存在の究極の目標であると、哲学者は長い間確信してきた。アリストテレスはそのことを「最高善」と呼んだ。私たちが金銭や権力といったほかのものを欲しがるのは、それで幸福になれると思っているからであり、自己目的化した幸福を求めているのである。[25]
- 価値ある製品やサービスは、自分たちをより幸福にするものだと客は思う――そんな方法で新しい市場が、幸福への願望をもとに創造された。[27]
- 自由市場: 自由市場の弱点は、本当の利益とは関係なく、十分な需要があればどんな製品でも供給すること。このように多くのビジネスは、より多くの物をもつことが生活の質を向上させるという考えを利用している。[33]
- 幸福の2つの柱: 人間の潜在能力――通常これが幸福を生み出すのだが――を完全に実現することは、「差異化」と「統合化」の2つのプロセスが同時に存在するかどうかによる。完全に差異化され、統合化された人は「複雑な個人」――幸福で、活力に満ちて、そして意義深い人生を送る最高の機会をもつ人――である。[35]
- すなわち、成功するためにはベストを尽くすことを楽しいと感じると同時に、何か自身を超えたことに役立っていなかればならない。[36]
- 進化: 進化は極限の複雑さに向かって進んできている。そして現時点の極限は人間なのである。人間の進化は独立と共同との間を、あるいは独自性をさがし求めることとより偉大で強力なものに属したいと求めることとの間を、揺れ動き続ける振り子の揺れとみることができる。[39]
- ビジネスと人間の発達: グッドビジネスを行うためには、会社は誰もが勇気をもって複雑化に向かって進んでいくような場であるか、少なくとも個人的な成長を妨げることのない場でなければならない。[41]
第3章 行動における幸福
- 幸福: 幸福は自分たちで起こす何かであり、ベストを尽くした結果起こるものである。潜在能力を実現するときに満たされる感情がモチベーションとなって差異化を引き起こし、進化へと続く。行動のなかで幸福を感じる体験は、楽しみである。すなわち十二分に生きているという、うきうきした感覚なのである。[45]
- フロー体験: 多くの人々が最高の楽しみの瞬間を、外部の力で運ばれていったり、エネルギーの流れで努力せずに流されていくような類似の表現で述べている。完全にのめり込む。思考と行動との、また自己と背景との区別はない。没頭する。フロー体験はしばしば他のものと密接に交流してすごした結果得られるものである。[47]
- フロー状態にあるとは: [52]
①目標が明確=人生の重要課題が成功ではなくなく幸福であるならば、重要なのは過程であり、結果ではない。②迅速なフィードバック=フロー体験に没頭する感覚は、多くの場合、その人がしていることがどれくらい重要なことかを知ることから得られる。望ましいのは、フィードバックがその情報を提供する行動自体から来ること。③機会と能力とのバランス=フローはチャレンジとスキルがともに高くて互いに釣り合っているときに起こる。しかし実際にはどんな活動にもフローは生み出せる。④集中の深化=「思考」が始まる時点で、詩人と詩作との融合が崩れる。エクスタシー(脇に立つ)。⑤重要なのは現在=「逃避メカニズム」は後ろ向きの脱出。フローは現在の事実からの前向きの脱出。⑥コントロールには問題がない⑦時間感覚の変化、⑧自我の喪失フローは自己目的的。内発的報酬がある。⇔外発的報酬がある[72]
第4章 フローと成長
- 進化論を唱える生物学者は、生物が時が経つにつれてさらに差異化される――ますます器官を特殊化させる――と同時に、さらに統合化される――その構成部分が一体となってより機能する――ことを観察した。この理由から、進化は主として有機体の複雑さが増幅することに関係があると、多くの人が論じてきた。[85]
- 群衆は、差異化されてもいないし統合化されてもいない。官僚制度は、統合化はされているが差異化はされていない。自由放任主義の組織は、差異化はされているかもしれないが統合化はされていない。管理の主要課題の一つは、組織の構成員の複雑さを推進する組織を創造すること。[86]
- 日常体験の図: チャレンジ/スキル=無気力/心配/不安/覚醒/フロー/コントロール/くつろぎ/退屈[90]
- 精神レベルにおいて、そこに存在するもっとも基本的な資源は注意力である。注意力は精神エネルギーであり、肉体エネルギーと同様に、もしその一部を手元の仕事にあてがわなければ、どんな仕事もなされえないのである。[96]
- 「人生」と呼んでいるものは、長年にわたり注意力のフィルターにかけてきたすべての体験の総量である。ゆえに、何に注意を払うか、またどのように注意を払うかが、人生の中味と質を決定する。[98]
- 「精神エネルギー」は、注意力を向けてもそこからどんな複雑さももたらされないときに浪費される。反対に精神資本は、向けられた注意がより複雑な意識をもたらしたときに創造される。[98]
第Ⅱ部 フローと組織
第5章 仕事でフローが起こらない理由
- マネジメントの目的は、共通の目的に向かって人々がともに働くことによって価値をつくりだすこと。ここでは人々をマネジメントする最善の策――従業員が実際にその仕事を楽しみ、その過程で成長する環境をつくり出すこと――に焦点を当てる。[107]
- 生き残るために、生あるすべてのものは、成長し繁栄するためのエネルギーをもっと取り込みたいと願うが、そのためにはエネルギーを少々犠牲にしなければならない。仕事とは、有機体がエントロピーによって壊されないようにするために行うもの。[111]
- 大昔、人間はすべて狩猟と採集によって必要なカロリーを得てきたが、のちに非常に多くの方法を考え出した。狩猟採集経済では、一人の人間が他の人間の仕事を利用することはほとんど不可能だった。人間の歴史の大部分において余剰はほとんど発生しなかった。狩猟採集民は、ほとんどの物が全体として家族や一族、または部族のなかで共有されていたいたので、別の意味できわめて相互依存的だった。財産は個人的なものというよりもむしろ共同のものだった。[111]
- 約1万年前に「農業」が発見され、それが狩猟採集民の遊牧民的な生活様式よりも、より効率的で信頼できるカロリーの所得方法だということが分かったとき、物事なかなり突然変化した。[114]
- このパターンは歴史上、新規の技術開発によって一部の積極的な人が他の人より優位に立つときにいつも繰り返されてきた。…そして権力を有する少数派は、自分たちの優位性を制度化し保護するために、政治的で合法的な手段を講じたのである。[115]
- 仕事でフローを実現することは、フローが起こるのに必要な条件に作用する障害によって困難になる。①今日の仕事には明確な目標がほとんどない、②現代の仕事では適切なフィードバックがほとんどなされない(⇔昔の職人は、仕事の対象が形づくられていくのを自分の目の前で見ることができた。一つひとつの動きが自分のスキルの表現たりえた)、③ワーカーのスキルは行動する機会にうまく適合していない(スキルとチャレンジがアンバランス)、④自律的コントロール感覚が得られない(複雑な階層組織はすべて労働区分――コントロールの構造を内包する、機能を専門化したもの――を有する)、⑤時間の活用はワーカーの外部のリズムによって決められる[116]
- プロテスタントの労働倫理: 過酷な仕事を通して幸福な生活をした人は、間違いなく死後に天国行きの候補に挙げられた。神は、地獄に行くことになっている人に褒美として富を与えたりはしないから。仕事はたんに生活のためにすることではなく、神に与えられた「使命」、すなわち神自身が計画した役割だった。[123]
- ワーカーが仕事に意義と価値を見出すことを妨げる文化的障害: ①消費者文化は仕事の価値を低下させることを数多くやってきた(より多くの顧客が必要とされるあらゆる市場性の高い商品の絶賛など)、②価値あるもの、または意義あるものが何もない仕事もある(グッドワーク=うまく実行され、同時に人類のためにもなる仕事は、思うほど簡単に得られるものではない)、③ポストモダンのビジネス組織の非永続性(気まぐれな株主など)、④管理者がワーカーを価値ある独自の人間と見ず、道具と見る風潮[125]
- ワーカーの仕事に対する姿勢をより良くするためにリーダーがとりうる3つの方法: ①仕事の環境をよりフローを導きやすいものにすること、②仕事に意味を与える価値観を明確にすること、③ワーカーの態度をより幸福で生産的になれる方向へ導くこと[134]
第6章 組織におけるフローの形成
- フローを可能にする条件: ①組織の目標を明確にすること、②フィードバックの活用(他者からのフィードバック/仕事自体からのフィードバック/自分自身の個人的な基準からのフィードバック)、③チャレンジとスキルの一致、④精神を集中する機会、⑤仕事のコントロールを可能にすること[137]
第Ⅲ部 フローと自己
第7章 ビジネスの魂
- 仕事にベストを尽くすようワーカーたちを奮起させるには、ビジョン、つまり仕事に意味を与えるような最優先の目標が必要。そのようなビジョンのもっとも重要な構成要素は、私たちが「魂(Soul)」と呼んでいるもの。[181]
- 魂とは: 魂は神経組織によってつくられる複雑さの現れ。「植物の魂」=ある複雑さに達した無機物それ自体が生み出すものであり、それが結局は生命になる。「感覚の魂」=植物と動物とを隔てるものと考えられてきた。より差別化し、統合化したレベルの物質的組織に発展した有機体に相応しい作用。「理性の魂」=動物と人間とを隔てるものと考えられてきた。[182]
- 人間の魂: 私たちの祖先に魂の存在を信じさせた現象は、人間の神経システムが他のどんな生命組織も達したことにない複雑さの度合いに達したときに、思考、感情、意志をもつ作用が可能になった。このようにして人間は内省的な意識を発達させた。内省的な意識とは、心の中で起きていることを、まるで外側から見るように、まるでそれが実際に存在する現実の新しい形であるように吟味する能力である。[183]
- 魂とは、そのエネルギーのいくらかを自らのためでなく、他の存在と関係をもち、関心をもつことにも使う、独立した存在だと考えられる。あるシステムが自分の殻を破るために余分なエネルギーのいくらかを使ったり、他のシステムに投資するなかで、それ自体よりも大きな存在と関係をもつようになったとき、私たちは魂の存在を感じるのである。人間のレベルにおいては、好奇心、共感、寛容、責任感、思いやりなどが、魂の注目すべき現れである。[184]
- 利己心を超越する能力は、おそらく人間の意識の新しい能力であり、物質的組織がある複雑さの段階に達した人間の神経システムの結果そのものである。物質的組織がどうにかして他の存在に手を伸ばし、自身を宇宙という存在の一部としてみることができるようになったという事実は、進化の驚くべき一段階である。[184]
- 「魂」と呼ばれるものは、変化と革新に投資できる余分なエネルギーとしてみることができる。つまり、それは進化の最先端なのである。[185]
- ビジョン: ビジョンとはいまだ存在しないものの行く手の表現であり、それは組織の未来の状態を予期することである。現在のシステムを新しく、望ましい形に変えるために、ビジョンにはエネルギー(すなわち財務的、社会的、そして精神的な資本)の投入が必要である。このようにビジョンとは、自身の潜在能力を意識し始めた組織がたどりつくと思われる進化である、と定義できる。[186]
- 魂を込めて描かれたビジョン⑴: 抜きんでた存在になろうとする企て。創造性(それによって新しい目的や新しい事物のやり方が生まれる作用)。[186]
- 魂を込めて描かれたビジョン⑵: 他の人のために何かをすること。彼女の精神エネルギーでつくり出しているものは、新しい一連の関係、いわば新しい社会的な有機的組織体である。概して彼らは、このような活動は「組織の価値の自然な進展」だと考えている。[188]
- 魂を込めて描かれたビジョン⑶: 宗教的信条にもとづく価値観を含む。これまで宗教は、よりよい世界を目指す夢の主要な宝庫だった。宗教の文化資本――幾世代もの蓄積された知恵――を引き出す機会を得ることによって、大量の精神エネルギーを節約することができる。何がなされるべきか思いめぐらす代わりに、物事を実際になすことができる。[191]
- リーダーのビジョンがこれらの目標――可能な限り最高の仕事をすること/人類と環境を救うこと/宇宙の意志に従うこと――の一つを含んでいると、組織それ自体が魂を持つことになる。組織のメンバーのエネルギーを力強くひきつけ、仕事によって得られる内発的報酬を超えて、それ以上に追求する価値がある目標になる。[196]
- リーダーに求められる人生に対する態度: ①楽観主義、②誠実さ、③志の高さ・粘り強さ、④好奇心と学ぶ意欲(学ぶことは、以前の自分を変革し、より複雑になった自分のために古い自分を捨て去ること)、⑤他者に対する共感(他の人々の必要性に対する感受性)、互いに尊敬する気持ち[198]
- ビジネスリーダーが、科学や芸術など他の分野のリーダーと異なる特徴: 無限の楽観主義と、同胞たちを信頼し、そして共感と尊敬を尊重していること。[210]
- リーダーたちのメッセージが魂に響き、私たちはみんな、より偉大な目的のためにつながり合わなくてはならないという必要性に訴えかけるので、他の人々は進んでかれらの指導に従い、仕事にフローを見出すのだ。[210]
第8章 人生におけるフローの創造
- 人生にフローを多くもたらすためにとるべき第一のステップは、そのために生きるに値すると信じる事柄の優先順位を明確に定めること。そうすると、漫然とした存在を目的のある楽しい冒険に変える根本的な目標が得られる。人はまず「自己発見」という困難な旅路に乗り出さねばならない。「汝自身を知れ」。[211]
- どのように自分を知るか: ①哲学者の場合;答えは内省――批判的な反省と、信念と知識の基盤を絶え間なく試し問うこと。②ビジネスリーダー;彼らにとって自分自身を知ることは目標ではなく手段。最終目標は社会で効果的に行動すること。核となる信念を探し求め、見つけた時にはそれを取り入れ、持ち続ける。「何をするつもりか」ではなく「どんな人間になるつもりか」。「死」を相談相手に選ぶ。「差異化」(違いをつくること)と「統合化」(親密な関係をもつこと)からなる精神的な複雑さを探求する。[213]
- 強さを発展させ、機会を発見する。自分の居場所を見つける。[216]
- 自己管理: 生涯を通してフローを体験するためには、自分の精神エネルギーを自由に操れる名人になることが必要。「自己管理」のもっとも重要な一面は、①注意力、②時間、③習慣を、自己に対するビジョンと連携させることを学ぶこと。[224]
- 注意力: 注意力は物事を意識にのぼらせるものであるため、それを精神エネルギーと考えると便利。注意力を管理するには、両極端のこと(例:専門知識と広い教養)のバランスを保たなければならない。そのための一つの方法;「それはどうしたら私の宇宙のイメージにぴったり合うだろう」。もし合わなかったら「どうしてぴったり合わないのだろう」と問う。そしてすべての関連情報をそれに統合する。このようにして、独自の見通しを維持しつつ、つねに関係の輪を拡大しながら、安定した基盤から成長し続ける。[224]
- 時間: 習慣がどうであれ、自分のリズムに注意を払うことが重要。[227]
- 習慣: 注意力が一つの方向に注がれ続けているときに習慣が形成される。習慣は人の心理のもっとも重要な要素である。人の人生は何年にもわたって、どこに、どのように注意を向けてきたのかの結果である。[236]
- 習慣を形づくる2つの要素: ①規律と性格――すなわち厳しい仕事による、②何をすることを楽しむか。理想的には、複雑さの成長につながる種類の探求を学ぶことを楽しむべき。[237]
- 宗教と習慣: 宗教は多くの人生において非常に強い核となる価値観であるため、祈りは人を自分の心に触れさせ、未来にたいする姿勢を決めるのに役立つ重要な習慣となりうる。[238]
第9章 ビジネスの将来
- ビジネスは生き残るのか?: もし市場が少数の人々のために役立っているにすぎないと広く認識されるようになり、多数の人々の幸福に役立たないということが分かれば、ビジネスはその主導権を維持することはできないだろう。束縛のない自由市場は必ずトラブルに向かう。[243]
- ビジネス言語が「教会や寺、偉大な哲学者の価値観」を取り込むことは、まさにこの恐ろしい薄っぺらな未来を回避することなのである。もしビジネスが手に入れた権力に伴う責任を念頭に置かない状態が続く場合は、遅かれ早かれ社会の免疫システムが自由市場のパラダイムを拒絶するようになるだろう。[247]
- 企業は、ものやサービスを生み出すことに加えて、人々の発展に貢献するための倫理的共同体になれるか?[249]
- グッドビジネスの原則⑴: 自己を超えたビジョン。魂;自分たちだけでなく、他の人々にも同様に恩恵をもたらす目標があると信じている。使命感;ベストを尽くす/人を助ける/よりよい社会を築く。もっとも重要な組織原則は信頼。信頼は尊敬から生じる[251]
- グッドビジネスの原則⑵: 組織メンバーの個人的成長に関心がある←職場においてフローのための機会を提供する(かぎられた仕事に注意力を集中する/個人的な問題や自己について忘れる/コントロールの感覚/時間を忘れる)。それ自体のためにする価値があること。[258]
- グッドビジネスの原則⑶: その組織によってなされる「仕事の本質」。その商品やサービスは、人々をより幸福にするか? 人を助ける商品・サービス。[262]
- グッドビジネスの原則の起源: 「価値観」は偶然に身につくものではないから、学ばなければならない。文化がますます世俗化する傾向にあるにもかかわらず、宗教的伝統は文化の進化と人間の幸福の改善にとって必要不可欠な価値観を依然として維持している。「宗教」は、人々がよい人生を維持するために、試行錯誤によって必要に応じて見つけ出してきたいくつかの核となる価値観の周辺で発達してきた。[266]
- グッドビジネスの核になる原則は早い時期に――家族のなかで、教会で、あるいは学校、ボーイスカウト・ガールスカウト、体操チームのような人と人のつながりの場で――学ばれる。これらの原則を真に吸収するためには、人は自分自身の力で生きている人々と接触しなければならない。[268]