[この本に学ぶ]
『ハイエスト・ゴール スタンフォード大学で教える創造性トレーニング』
マイケル・レイ 著
日本経済新聞社(2006年)
著者のマイケル・レイは、スタンフォード経営大学院で長年にわたって「ビジネスにおける個人の創造性開発コース」を教えてきた人物。教え子には、『ビジョナリー・カンパニー』の著者であるジム・コリンズ、イーベイの創業者であるジェフ・スコールなど錚々たる面々が名を連ねている。
そのマイケル・レイが、個人の創造性を目覚めさせ、持続させ、高めていくには、そしてまた、それによって人生を充実させるにはどうすればいいか――を解いたのが本書であり、その方法こそが<ハイエストゴール(最高のゴール)>をめざして生きるということだ。
<最高のゴール>とは何なのか? それは世俗的な意味での“成功”とは異なる、いやむしろ対極をなすものだと本書は説く。著者の言葉をそのまま借りると――
昔から多くの哲学者たちが、われわれは自己の内部に驚くべき可能性を秘めていると教えている。そこには宇宙全体の可能性が含まれる。…最高のゴールとは、つながりあるいは真理(それが何をさすにせよ)のこうした経験のなかに絶えず身を置くことに尽きる。
より大きなエネルギーとの共鳴の経験…人びとはそれをさまざまに表現する――神とのつながり、絶対的なものとの合体、悟り、神の仕事をする、愛とおもいやりを結びつける、常に自覚的でいる、<自分>を発見しそれにしたがって生きる、などなど。それにもかかわらず、誰もが同じことについて語っているのだ。最高のゴールとは、こうした経験を絶えず重ね、それによって自己を確立することなのである。
<最高のゴール>――。それは上記の説明にも見られるように言語化がきわめて困難なものだが、日本人に馴染みのある表現としては、ひとまず“悟りの境地”と理解すればよいのではなかろうか。
さて、その“悟りの境地”も、このままでは我ら凡人にとっては依然掴みどころのない言葉だが、本書の秀逸なところは、その“悟りの境地”に至るための有力な「掴みどころ」を誰にでもわかる表現と方法で示してくれているところにある。それが<生活の指針>と呼ばれる、さまざまなモットーのようなものであり、この<生活の指針>に従って生きることによって、私たちは<最高のゴール>を見つけ出すことができる――と、その具体的な方法が懇切丁寧に述べられている。一例を示せば、「自分自身の道を歩もう」「大好きなことだけをせよ、することすべてを大好きになれ」「あらゆる瞬間にシナジーを感じとろう」「与え、受けとる流れに乗る」「すべては新しい」といった感じだ。
ちなみに“悟りの境地”について、著者は、ある師の次のような言葉を紹介している。「悟りの境地とはありのままの自分でいること、今現在、自分が正しくあること、恥や罪悪感や不安や逡巡とは無縁の状態にあることだ。あるがままの自分でいなさい。それだけで十分。それが悟りの境地なのだ」と。
<最高のゴール>は、一人ひとりそれぞれに異なるものであり、それぞれが自分にとっての<最高のゴール>を見つけ、それに向けて「自分自身の道」を歩んでいくことが何よりも大切だと著者は説く。背景には「多様性」に対する絶対的な信頼があるわけだが、それはまた、それぞれの人にとっての<最高のゴール>が、最終的には同じ所に至るものであることへの確信だともいえる。山の頂に至る道はさまざまにあっても、最後は、皆が同じ一つの山頂で出会うことができることへの信頼だ。
この地球上には無限に近い多様性がある。とはいえ、さらに重要な事実は、魂という宝もののレベルの話になればその違いは消滅するということだ。心のなかでは一つの光だけが輝いている。この光はすべての存在に共通のものである。真理のベールを取り去り、この光を感じとって自己を確立することは、魂の追求の目標なのだ。
<最高のゴール>の着想を最初に得たのは、著者が、菩提樹ならぬベニカエデの木の下に腰を下ろして瞑想している時だった。木が、著者にこう語りかけたという。「マイケル、ありのままでいるんだ。自分のなかにある安らぎを身をもって知るんだ。私の葉の一枚一枚の美しさは、君のなかにあるのと同じ美しさから生まれている」のだと。
