[この本に学ぶ]
『フツーの会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉』
原 晋 著
アスコム(2015年)
青山学院大学陸上競技部の、ご存知、原監督がこれまで選手たちに繰り返し語ってきた「47の言葉」を挙げ、その意味と背景について解説している本。プロローグには「ビジネスというグラウンドには『人と組織』を強くするノウハウが埋まっている」というタイトルが付けられているが、本書はまさに、原監督が中国電力の営業マンとして身に付けてきた組織経営のノウハウを、大学運動部に応用することで成果を挙げた、その舞台裏を克明に明かしてくれる。
今年(2019年)、青学は箱根駅伝で惜しくも5連覇を逃したが、その強さはまだまだ続くに違いない。なぜなら、原監督は、決して「目先の強さ」を追いかけることなく、10年に及ぶ長期計画のもと、「風土づくり」という基礎の基礎から一歩一歩着実に組織の強化を図ってきたから。その見事なまでの計画と実践は、まさにビジネスの世界における卓越したプロジェクト・マネジメントを彷彿させる。
「47の言葉」は下掲のNoteに記載のとおりだが、中でも「19)体育会流の『ハイッ!』といい返事をする人間は伸びない」は、原監督の経営観を最も端的に物語る言葉だといえよう。「ハイッ!」という返事は、いわゆる体育会系気質を象徴する言葉だが、原監督はこうしたものを真向から否定する。「いい返事」をする学生は、つまり、自分の頭では何も考えておらず、練習のときも試合のときも、ただただ監督の顔色ばかりを伺う、そんな選手にしか育たないからだ。
そうではなく、原監督はつねづね選手たちに「自分の頭で考える」ことを教え込み、「27)考えることが楽しいと思える人間をつくれ」という。そしてさらには「11)答えを出すな、出るまで待て」「14)管理職の仕事は管理することがじゃない、感じることだ」という。
こうした経営観は、組織を“生きたシステム”として捉えるもので、野中郁次郎の「組織的知識創造理論」やビーター・センゲの「学習する組織」を見事なまでに体現したものとさえいえる。それが証拠に例えば、原監督の指導スタイルは箱根駅伝の優勝に至る「10年計画」の期間中、決して「固定的」なものではなく、組織の成熟度に合わせてどんどん変化させてさせている。命令型→指示型→投げかけ型→サポーター型の4つのステージがそれで、それに合わせて原監督は、選手との間の「距離感」もさまざまに変えている。そして今では、選手を「遠くから見ている」だけで済むようになったという。まさに「自己組織化」状態が生み出されている、といえよう。
1976年を最後に箱根路から遠ざかっていた弱小軍団を、就任5年後の2009年に33年ぶりに箱根に復活させ、そのさらに6年後には宣言どおり初優勝を果たし、4連覇を果たす――この目を見張るばかりの成果は、原監督の手によって成し遂げられた厳然たる事実であって、決して“マジック”ではない。だからその足跡をつぶさにたどれば、そこには強くなった「確固たる理由」が存在するはず。それは間違いない。
だがまた、そうしたノウハウは、「47の言葉」によって簡単に言語化できるほど単純なものではなく、青学陸上部で長い年月を掛けて育まれてきた組織の暗黙知は、その一員となって体感してはじめて本当に理解しうるもの。部外者からすれば、やはりどこまでも“原マジック”として、遠くから賞賛するほかないものともいえよう。

第1章 チームで結果を出し続ける
01)「業界の常識」を疑え
01)「業界の常識」を疑え
02)誰がやっても強い組織をつくりなさい
03)土壌が腐っていたら、いくらいい種でも芽が出ない
04)「目標管理ミーティング」で成長を促がせ
05)コーチングの前にティーチングあり
06)「いちばんつらいときに明るくなれる人」がリーダーである
07)エースを育てよ、エースに頼るな
08)迷ったら「基本」に立ち返れ
09)「情報遮断で忍耐させる」のは、もはや通用しない
10)「相談してくる人」に育てよ
11)答えを出すな、出るまで待て
12)「顔つき」「しぐさ」で使う選手、使えない選手がわかる
13)怒るより、諭しなさい
14)管理職の仕事は「管理することじゃない、感じることだ」
15)常識を破れ!「2区はエース」ではなく「3区がエース」だ
第2章 伸びる人材を見極める
16)スカウティングのポイントは粘り勝ちできる「強さ」があること
17)能力を開花させる人材は「オーラ」を放っている
18)自分のことを自慢しなさい
19)体育会流の『ハイッ!』といい返事」をする人間は伸びない
20)「チャラい」は最高のほめ言葉である
21)本当に採りたいなら、ビジョンを理屈と情熱で伝えろ
22)「来てください」とお願いするな
第3章 潜在能力を引き出す
23)目標を「数字」に置き換えよ
24)目標には「チーム目標」と「個人目標」がある
25)「柿の木作戦」でメンタルを強くせよ
26)目線は自在に上下でいきないといけない
27)「考えることが楽しい」と思える人をつくれ
28)できない理屈を並べるな、できる理屈を考えろ
29)チームには「平等感」が必要だ
30)「ピーキング理論」で1年に1度しなかいその日に勝て
31)強いチームにいるから自分も強い、と勘違いするな
32)たとえ話のネタ帳を持て
第4章 人間力を育む
33)陸上だけじゃない、「人として成長できるか」が大切なんだ
34)「コミュニケーション力」を武器にせよ
35)規則正しい生活で「成長の核」をつくれ
36)成長させたいなら、見守りなさい
37)心根の悪い人間が、チームをダメにする
38)50番目の人間にも、50番目の価値がある
39)「短距離が得意な人間」と「長距離が得意な人間」の違いを読め
40)伸びる人間には「覚悟」がある
41)適材適所でチーム力を上げよ
第5章 周囲を巻き込んで力に変える
42)まともなことを言い続けると、最終的には仲間は残る
43)メディア露出を「栄養剤」に変えよ
44)「キャッチフレーズ」にして伝えよ
45)できないことは、外部の専門家から新しい技術を取り入れよ
46)いいと思うならやってみればいい。ダメだと思ったら、やめればいいだけだ
47)そもそも人間は明るいほうがいい