[この本に学ぶ]
『強く生きたいと願う君へ』
坂本光司 著
WAVE出版(2012年)
全6巻、シリーズ累計70万部のベストセラーとなっている『日本でいちばん大切にしたい会社』。その著者である坂本光司(法政大学大学院政策創造研究科教授=当時)氏が、氏のゼミ生に語り掛けるような口調で綴る、現代を「本当に強く生きる」ための珠玉の助言集。「強さとは何か?」「強く生きるとはどういうことか?」についての氏の考えが、自身の体験とともに真摯に語られており、ゼミ生の中でも絶大な人気を誇る一冊だという。
強く生きるためには、もちろん「力」が必要です。しかし、それは他者を打ち負かす「力」ではありません。世のため人のために役立つ「力」にほかなりません。それこそが、本物の「力」なのです――。こんな言葉で始まる本書は、「『なくてはならない人』になる。それが『力』をつけることだ」「仕事を正しく定義する。そこに『生きる道』が拓ける」「いま、戦うことが強い生き方とは限らない」などなど、15にわたる指針を立てながら、「本当に強く生きる」ために大切なことがらを具体的に説き示していく(詳細は下掲「NOTE」ご参照)。
そして著者は、「本当に強く生きる」うえで最も大切なのは「利他の心」だと結語する。理由はこうだ――。本当に強い人で、苦しみを経験したことのない人はいない。そういう人は、自分が痛い思いをたくさんしてきたから、人の痛みがわかる。他者の痛みをまるで自分の痛みのように感じられる力が培われている。そこで、苦しんでいる人を見ると、痛みに寄り添ってなんとか力になってあげたいと思う。どうすれば良いのかと考える。だからこそ、そうした人の「痛み」を思いやる心、即ち「利他の心」を持つことが、私たちに「力」を与えてくれるのだ。
著者は、40年にわたって全国6600社超の中小企業の現場に足を運び、さまざまな経営者や従業員の生き様に直接触れてきた。本書で展開される「本当に強く生きる」ための方法は、そうした弱い立場にある人々が、弱さを克服する過程で見出してきたかずかずの実践的知識や教訓の中から、著者が丁寧に紡ぎ出し整理したもの。まさに珠玉の金言やエピソードが全編にわたって散りばめられており、感銘を覚えずにはいられない。

はじめに
- 企業の長期的な業績は、経営者やリーダーの「人間性」や「生き方」をそのまま反映する。最大のポイントは「自律心」と「利他の心」。関係者を幸せにしたい、世のため人のために役に立ちという「利他の心」を軸にしながら、他者に依存、追随せず、自分の頭で考え、自分の足で歩き続ける。そんな姿勢を貫く経営者やリーダーのいる会社は持続的に成長する。
- 強く生きるためには、もちろん「力」が必要です。しかし、それは他者を打ち負かす「力」ではありません。世のため人のために役立つ「力」にほかなりません。それこそが、本物の「力」なのです。
- 「強さとは何か?」「強く生きるとはどういうことか?」。「本当に強く生きる」ために大切にすべき15のことがらをまとめた。
第1章 「なくてはならない人」になる
1.「なくてはならない人」になる。それが、「力」をつけることだ。
- 生きるうでもっとも大切なのは「優しさ」。だが、単に「優しい」だけでは、自分が理想とする職場や社会をつくりだすことはできない。そのためにどうしても「力」が必要となる。
- あらゆる仕事は人間のためにある。あらゆる仕事の先には、何かに困っている人や、助けを求めている人が必ずいる。どうすれば、その人たちの役に立てるか? そのことをひらすら追求すれば、私たちは「なくてはならない存在」になることができる。そのとき、私たちは「力」を手にすることができる。
2.仕事を正しく定義する。そこに、「生きる道」が拓ける。
- 「人材」とは「取り替え可能な人」。「人財」とは「なくてはならない人」。人材にとどまるか、人財へと育つかは、その人が自分の仕事をどのように定義するかという一点に尽きる。自分の仕事を正しく定義する第一歩は、目の前にいる人の役に立つ、喜んでいただくという気持ちをしっかり持つこと。
3.いま戦うことが、強い生き方とは限らない。
- 組織の中で正しいことを通すためには、「力」をつけて地位を高める必要がある。その「力」とは、「その人をもって代えがたい」という知識や能力によるもの。
- むやみに戦うのが本当に強い人間のすることではない。それよりも、自らが正しいと思うことを貫けるだけの「力」をつけることが大切。
第2章 本質を見極める力をもつ
4.人の器はみな同じ。そこに、何を入れるかで人生は決まる。
- 意味のある情報を蓄積した時に、はじめて知識は「武器」になる。そのために最も重要なのは、「何のために知識をもつのか」「仕事を通して誰の役に立つのか」という目的をしっかり持つこと。
- 「T型の情報インプット」を徹底すると、徐々に「V型」に近づいていく。
- 人の能力はみな同じ。誰でも同じ一升枡を持っている。その一升枡を何で満たすか――によって人生は大きく変わる。
5.全体を見晴らしながら、「目の前の仕事」に全力を尽くせ。
- 強く生きるためには、高い視点をもつことが必要。広い世界、あるいは全体が見えるからこそ、「目の前の仕事」で何をすべきかが明確になる。そして、進むべき進路が見えてくる。
6.現象に惑わされず、常に本質を見極めろ。
- 問題には「現象問題」と「本質問題」の2つがある。なんらかの問題に直面したときには、その「本質問題」を徹底的に追求することが必要。
- 「本質」を見極めるためには、「主観ではなく客観」「短観ではなく歴史観」「ローカル観ではなく世界観」をもって問題をみつめる必要がある。
7.必ず、自分の眼でみて、自分の手で触れなさい。
- 自分の眼でみて、自分の手で触れる。それこそが私たちに力を与えてくれる。
8.耳は二つ、口は一つ。「声なき声」に耳を傾けなさい。
- 相手の「声なき声」にじっと耳を傾ける。相手の立場を考え、相手も幸せになるためにはどうすればいいかを考える。それが、私たちに強く生きる力を与えてくれる。
9.一%の素敵な人に会いたければ、百%の人に会いなさい。
- 優れた人物・経営者は、広くて深い人的ネットワークを持っている。それは、その人が「実現したい」と願っていることに共感する人がたくさんいるということ。
- 人的ネットワークを築くためには、まず何よりも「志」をもつこと。その「志」を果たすために力が足りなければ、その力をもっている「人」を広く求めることが大切。
- 人との出会いを大切にする。1%の素敵な人に出会うために、100%の人々と出会うようにする。
第3章 喜びも悲しみもともにする
10.喜びも悲しみもともにする、そんなチームをもちなさい。
- 「自律する」とは、たった一人で生きていける力をつけるということではない。どんな人でも、周りの人に支えられてはじめて「自律」することができる。その意味では、現代のように孤立しやすい環境の中では、本当の意味で「自律」するのは難しい。
- 強いチームができてはじめて、一人ひとりも強くなる。
- 従業員の「温かい心」が職場を変える
- 私たち、一人ひとりは弱い存在。だからこそ、力を合わせて強くなろうとしている――本当に強い人は、このことを知っている。
11.「強者」ではなく、「本物」をめざせ。
- 強者にも弱者にも2種類がある。「本物の強者」と「偽物の強者」、「本物の弱者」と「偽物の弱者」だ。強者と弱者とは絶対的なものではない。それは、状況によって簡単に入れ替わる相対的なものにすぎない。そして「偽物」は必ず滅びる。
- 本当に強く生きるとは、「強者」になることではなく「本物」になること。
12.人生に遅すぎることはない。
- 人は、いつでも、思いたった時から変わることができる。その勇気を持つことこそが、本当に強く生きること。
第4章 人生でいちばん大切なものを知る
13.涙の数だけ、人は強くなれる。
- 「周りが悪い」と恨むばかりでは、一歩も前に進むことはできない。「負の感情」は私たちの精神を蝕む。「負の感情」に支配されて貴重な人生を費やしてしまうのは悲劇そのものだ。本当に強い人とは、この「負の感情」を自らの意志で乗り越えていく人。
14.「痛み」を知りなさい。それが、君に力を与えてくれる。
- 本当に強い人で、苦しみを経験したことのない人はいない。そういう人は、自分が痛い思いをたくさんしてきたからこそ、人の痛みがわかる。他者の痛みをまるで自分の痛みのように感じられる、そういう「力」=「利他の心」が培われている。人の痛みに寄り添って、なんとか力になってあげたいと思う。その純粋な思いが、回りまわってその人の「強さ」になっている。
- 多くの人が幸福感を得られない現代。そこには複雑な要因がからんでいるが、私たちが「痛み」に寄り添う気持ちを失ってしまったことも大きな要因。人の「痛み」を思いやる心、即ち「利他の心」を持つことこそが、私たちに「力」を与えてくれる。その意味で、「痛み」とは「恵み」ともいえる。
15.人生でいちばん大切なものを知りなさい。
- 私が、ゼミの学生たちを必ず連れて行く「知覧特攻平和会館」。皆が心を打たれるのは、私たちが特攻隊員と同じ気持ち、即ち、家族への愛情こそが人生でいちばん大切なものだと思っているから。
- そのとき、私たちは「経済」「利益」「お金」がいかにちっぽけなものか分かる。そのことに気づけば、私たちは「利他の心」を取り戻すことができる。そしてこの「利他の心」こそが、私たちに「本物の強さ」を与えてくれる。