ダイアローグ171210

勝つ組織とは何か


[この本に学ぶ]
知的機動力の本質 アメリカ海兵隊の組織論的研究
野中郁次郎 著
中央公論新社(2017年)


著者の野中郁次郎氏は、経営学・組織論の研究者として数十年、数えきれないほどの組織を研究し、「勝つ組織とは何か」を模索してきたが、アメリカ海兵隊ほど興味深い組織に出遭ったことはないという。本書は、世界最強の攻撃部隊といわれる、そのアメリカ海兵隊の「本質の理論化」を試みたもので、「勝つ組織とは何か」という問いに対する著者の答えが見事なまでに描き出されている。

著者は1984年、名著『失敗の本質』を上梓。その研究の過程でアメリカ海兵隊に興味をいだき1995年に『アメリカ海兵隊』を著して「自己革新組織」の要件を明らかにしたが、本書『知的機動力の本質』は、『アメリカ海兵隊』の組織論的分析をさらに深めて、従来から進めてきた知識経営の「組織的知識創造理論」の研究成果をアメリカ海兵隊に応用したもの。その「強さの秘密」に関わる組織としての全体像がきわめて体系的に描き出されている。

本書ではまた「組織的知識創造理論」に関わる新たな概念として、タイトルともなっている「知的機動力」という概念が提示されている。それは、リーダーのみならず組織成員一人ひとりが現実の市場や技術などの環境変化と組織の動きを感じ取り、組織のビジョンやゴールに向かって組織やその構成単位が常に正しい方向に進んでいるかを適時適切に判断しつつ、戦略や戦術をダイナミックに変えながら組織的に行動していく、というもの。この新たな概念の導入により、「組織的知識創造理論」はその精緻な体系がさらに深みを増し、実践的にも理解しやすいものになった。

著者は、本書(第1部)の最後を次の言葉で結ぶ。

知的機動力は、組織成員一人ひとりの心と体を一つにすることで組織が一つの心と体を持って環境に棲みこむ、すなわち「組織・環境一心体」になることで実現できる。

これは、平たくいえば何のことはない。幾百万人にも及ぶ日本の企業経営者たちが、口を揃えて唱えてきた「みんなの心をひとつにして」ということに他ならない。だが著者は、この凡庸ともいえる結論が当たり前のことでなくなりつつある今日の日本の状況に危機感を覚え、それがゆえに『アメリカ海兵隊』を22年ぶりに改訂し、本書を改めて世に問うたのではなかろうか。

アメリカ海兵隊は、自らを「アメリカン・サムライ」と呼び、宮本武蔵の『五輪書』を機動戦の一部に採り入れるなど、日本人や日本的組織の長所を学ぶことを通じて、最強の軍事組織へと進化し続けてきた。そんなアメリカ海兵隊に、今度は逆に日本人が学び直してもらいたい、そして日本企業に21世紀を力づよく乗り切る自己革新組織を創り出してほしいというのが、著者が本書に託した願いに違いない。その心情は、本書の「おわりに」で次のように語られている。

戦後徐々に日本社会で薄れていっている、人間の根本的な燃えたぎる意思や信念、生きざまを中心に据えるという考え方は、われわれ日本人が海兵隊からもう一度学びなおさなくてはならない部分なのかもしれない。

企業人には、リスクを取りに行く積極果敢の精神で、オーバー・アナリシス、オーバー・プランニング、オーバー・コンプライアンスを創造的に破壊し、全人的な知の創造に構成員全員がコミットする「全員経営」を実現してほしい。人と人と環境とを「心体」でつなぐ「組織・環境一心体」の経営に立ち返り、日本のさらなる社会的発展に貢献していってもらいたい。

海兵隊のマネジメント原則は、他のいかなる組織にも共通する、シンプルな真理に基づいている。ただ違いがあるとすれば、海兵隊ではそれらの原則に自分たちの生命を託してきた。みずからの生死をかけて磨きをかけてきた、という点にある。アメリカ海兵隊という組織を支える知識や知恵は、まさに“真剣勝負”を通じて生み出され、積み上げられてきたものなのである。





第1部 アメリカ海兵隊の知的機動力

第1章 海兵隊の歴史概観

第2章 海兵隊の組織論的分析

1.環境適応
  • コンティンジェンシー理論: 環境、組織志向、組織構造、成員属性、組織過程の相互作用によって組織有効性(成果)が生まれ、環境と組織志向、組織特性へのフィードバックのサイクルを通じて、各要素をバランスよく適合させる情報処理能力を構築して環境に適合していく、というモデル。組織が環境の生み出す情報不確実性にいかに対応するかについて、理論的に最も大きな貢献をしてきた。

2.組織志向
  • 機動戦: 戦場において物理的・心理的に相手を追い詰めて勝つことを目的とし、予測不能な行動をすばやく取って敵を混乱させ、その混乱に乗じて最も脆弱な点に兵力を集中して突破する「賢い戦い方」。機動戦を行う組織は、自律分散型・協働的なネットワーク型でなければならない。
3.組織構造と人的システム
  • 海兵隊の組織構造の最も大きな特徴は、管理用の官僚制組織と作戦用の機動性組織(MAGTF)という相反する特徴をもつ組織構造が適時変換しあうこと。

4.成員属性
  • 海兵隊の3つの中核価値: 「名誉」「勇気」「献身」
  • 海兵隊らしさをつくる基本的価値観: 「相互依存」「犠牲」「忍耐」「自信」「任務への信頼」「高潔さ」
5.組織過程
  • 将校と兵士の関係は「子弟関係」。
  • 指揮と統制の分権化: 作戦の望ましいテンポを生み出すために、そして戦闘の不確実性、無秩序、流動性に最もよく対処するために分権化。海兵隊にとって「統制」はボトムアップを意味する。
  • 80パーセントの解決: 即断という長所を備えた不完全な決定
  • 2段階アップ: 指揮官が隊員に命令するときには、自分の上官(全体目標)と自分(個別目標)の意図の「目的」と「理由」を説明するが「方法」は任せる。指揮官の計画を作戦全体の文脈に関係づけて合意形成を図る民主的コミュニケーション。
  • OODAループ: 「観察」「情勢判断」「意思決定」「行動」の4つの意思決定プロセスで構成される。実行可能な第一のソリューションを直観的に生み出す意思決定は、多数の代替案を比較しないので、分析的意思決定よりはるかに速い。
  • 海兵隊文化のほぼすべての価値観や特徴は、それぞれ相反していながらバランスを保っている。個人の特性というよりは、組織的なバランスを取ることでフルパワーを発揮する。
第3章 海兵隊の知的機動力モデル

1.はじめに
  • 軍事組織研究では、適応(adaptation)と革新(innovation)を峻別する。適応とは、今の現実を未来のニーズに適合させること。革新とは、適応するために新たな知識と価値を創造するプロセスであり、イノベーションは適応を加速化させるエネルギー源である。
  • 機動戦とは、われわれの損失を可能な限り最小限にとどめながら、敵に最大限の決定的な打撃を与える哲学、すなわち「賢く戦う」ための哲学なのである。換言すれば、「賢く戦く哲学」は、組織能力を知力で変革する「知的機動力」を基盤とするのである。
  • 環境や他者との相互作用のただ中で、つど開かれてくる状況を利用しつつ、論理的に「ベスト」ではなく、「いま・ここ」で「ベター」な決断と実行を積みあげながら、矛盾を解消していくのである。
  • 適応と革新は、適応、革新、適応、革新の連続体であり、持続的な組織的知識創造のプロセスそのものである。適応と革新の歴史的ダイナミズムを無視して、突如、破壊的イノベーションが生まれることはありえない。
2.知識創造モデルの哲学的基盤
  • 「知的機動力」モデルをよりよく説明するためには、理論的モデルの中核コンセプトを「情報処理」から「知識創造」に変換しなければならない。「情報」は主体にとって外発的だが、「知識」は信念から生まれ、内発的である。情報は物理的に情報量ビットで計算できるが、知識は情報の意味解釈である。人間が主体的に情報を感知し、解釈し、実践し、身体化しなければ知識や知恵にはならない。
  • 心: 「心」は、環境から孤立した主体内部の機械的な情報処理過程というよりは、具体的な環境のただ中で生きるための行為を通じて、データを情報に、情報を知識に、さらには知識を知恵に変換し、心の存在を確立してきた。行為を実現するには、感覚・知覚・思考が行為と直接結合し、身体を媒介にして環境とオープンに相互作用する「身体化された心」が必要だ、とする現象学の影響を受けた脳科学のアプローチが主流になりつつある。
  • フッサール: 「日常性の数学化を推し進める諸科学が客観的に確定しうるものだけを真理とするならば、世界に生きる人間の存在は意味をもちうるか」と問い、「人間の生き生きした主観こそすべての学問の根本であるべきだ」との信念から現象学を構築。

  • 暗黙的統合: ポランニーは、知識は暗黙知と形式知という2つの次元で構成されており、プロセスあるいは動名詞としての暗黙知こそが知識の源泉であると唱えた。そして、ばらばらの部分的な知の要素を関係づけ、一貫性のある包括的全体をボトムアップで推論して、総合的に新しい意味をつくる能力を「暗黙的統合」と名付けた。
  • 一つのレベルから上位の層が生まれるのが「創発」であり、上位の概念が細目の意味を既定する。この部分→全体→部分の「から~へ」の一連のダイナミックなプロセスが、暗目的統合によって起きる。
  • 副次的意識(細目)をすべて言語化することはできないが、焦点的意識(全体)によって捉えられるものははっきりと概念化しやすく、意味をもっているので意識的に語ることができる。部分を全体感覚でとらえ、それらに概念的なものを加えた全体が「心」とも考えられる。

  • 部分と全体は相互作用する関係にあり、何に焦点を置くかという目的性、つまり「何を見ようとするか」を変えることにより、細目と全体の関係を行き来して、暗黙知から新たな意味を生み出す。
  • どこに焦点をあてて何を全体とするかを決めるのは、主体の目的意識。人口知能が飛躍的に発達した今日においても、ダイナミックに変化する文脈に応じた全体目的の設定は、人間だけにしかできない独自能力。
  • アブダクション(仮説生成): 「暗黙的統合」による知識創造の方法は、パースが提唱したアブダクションと通底する。アブダクションは事実の察知から始まるが、そのためには何よりも「目的意識」が必要である。自らの信念や思い基づいて焦点を決め、細目を観察してそれらを統合することによって仮説が生まれる。アブダクションは、現実の個別の事象のかすかな徴候にも驚きや変化(細目)を察知し、関係するありとあらゆる知見を統合して飛躍した仮説を創り、試行錯誤的に検証しながら新たな発見に至る。
  • 脳の機能: 外界からの情報の多くが身体を媒介にして無意識に取り入れられるが、知覚できる身体の反応を「記憶」を参照しながら仮説にして説明していくのがダイナミックな脳の基本的な機能。これは「暗黙的統合」にほかならないのではないか。
  • 人格的知識: 暗黙知は、知を主体的に求めるその人の過去・現在・未来の思いを含んだ全体としての人間であり、本来は「人格的知識」と訳されるべきもの。個人の全人格が能動的な知性全体の中心なのである。
  • 暗黙的知識は、究極の真理に到達しようとするプロセスにおいて、常にその時々の「部分―全体」の相互作用における諸段階にすぎないとも言える。それでもなお、そこに隠れた真理があることを担保するものは何か。ポランニーは、品位と美意識のある「知の探究者」の普遍的意図と無限の目的達成への卓越性を追求する職人道やプロフェッショナリズムがあるかぎり、単なる主意主義や現場主義のドグマに陥ることはない、と主張する。
3.組織的知識創造理論
  • 知識の定義: 個人の全人的な信念/思いを「真・善・美」に向かって社会的に正当化していくダイナミックなプロセス。
  • 組織的知識創造プロセスを説明するSECIモデルは、アブダクションを演繹と帰納によってより確実なものにする実践的統合モデル。
4.組織的知識創造能力とリーダーシップ
  • 海兵隊の知的機動力の源泉は、海兵一人ひとりの暗黙的統合を「組織化」していることにあるのではないかと考えられる。海兵隊は、SECIモデルでとらえられる組織的知識創造プロセスを組織全体のあらゆるレベルで創発させるリーダーシップや仕組みを開発してきた。

  • 共同化力: 「共同化」には、他者あるいは環境に感情移入ないし共感(empathy)し、「相手の立場に立って物事を見ること」、つまり、他者の身体の動きの感覚の類似(同質性)や対比(異質性)から意味を直感し合うが、同時により実践的・理性的・客観的な判断も含めて、他者と共に「物事を観る」共観(sympathy)に繋げていく。このプロセスは、現象学の「相互主観性」の概念に通底する。
  • 「共同化」は、個人間に生じる成人の「我―汝」関係を場として、主客未分の共感を通じた気づきや発見による知の獲得・共有プロセスであり、受動的な感情移入(empathy)から能動的な共観(sympathy)との相互作用に向かう意味生成の不断のプロセスと考えられる。
  • 身体性を基盤とする「質感覚」を媒介とした共観と共感の能力が「心」の領域である。
  • 海兵隊における暗黙知の育成: 「われわれの指揮の哲学はまた、暗黙的に意思疎通する人間の能力を活用しなければならない。暗黙的コミュニケーション――お互いを理解し合い、言葉の使用をよくわかった重要なものだけにとどめ、あるいはさらにお互いの考えていることを察し合うことのほうが、コミュニケーションの手段としては、詳しい明示的な指示を使うよりもっと速くて効果的であると信じる」『ウォーファイティング』
  • 意識されない統制: メンバーが互いに価値を認め合い能力を十分に発揮できる組織では、メンバーは組織に対して強い愛情と一体感や同一性をいだく。また、高い組織目標を掲げることは個人の自己実現欲求を促進し、同時に組織全体としての能力を高める。この相互作用によって、組織の目標は自己の目標と一体化し、目標の達成に向かって力強く動機づけられると同時に、メンバー相互に強い同一力(referent power)が働いて自発的な自己統制が行われる。すなわち、同一力に基づくメンバー全員のリーダーシップを組織内に構築することによって、組織とチームの目標は自己の目標に内在化される。

  • 表出化力: 他者との共観は、他者を鏡とした自己認識のプロセスでもある。そこから調和のみならず対立も発生するので、弁証法的な対話を通じて相互の暗黙知の本質を概念化しながら矛盾を止揚していくプロセスである。
  • 中庸: 「知識」は、流動する関係性のなかから生み出される矛盾を二者択一によって解決するのではなく、完全な調和ではないと知りつつも、状況に応じて、よりよい均衡に向かって矛盾を高次のレベルに止揚していく概念である。「対話」は、参加者の暗黙知と形式知の相互変換の共創プロセスであり、主観と客観、個別と普遍の往還を行うプロセスである。
  • AAR: 効果的なAARは、個別具体の経験を言語化し、未来の状況で海兵全員が使える知的枠組みの共創につながる。この枠組みがあらゆるレベルのリーダーに必要な本質的スキル、決定的な時点での直観的意思決定の基盤となる。
  • 指揮と統制: 海兵隊の指揮と統制は、トップダウンとボトムアップのダイナミックな共創関係にある。
  • ライフルマンシップは、表出化能力の基盤となる。照準設定、呼吸、風速計算などの細目を綜合して標的を撃つ作法は、文脈を考慮しつつ概念創造を行うアブダクションを認知スキル化することにつながる。

  • 連結化力: 『マリーン・コー・ガゼット』が「知的論争」の場を提供。
  • 戦略と物語: 「戦略とは、矛盾を解消するパワー創造のアートである」がゆえに、物語の方法論が最も有効。社会現象は、相関関係の原因と結果が識別できない同時発生であることが多く、そのプロセスを記述することが説明の役割を果たす。複雑系における矛盾解消のダイナミックなプロセスは、数理モデルの因果分析ではなく、物語としてしか形式化できない。「戦略とは、知力の組織的共創を方向づけるオープンエンドの物語である」とも言える。
  • 戦略的物語は、次に採るべき行動の連鎖を物語として示す。つまり、合理的な必然性よりも物語的な非合理も含む因果性、正確性よりもプロットの説得力を重視する。それには、ロゴス(論理、理論)だけでなく、パトス(感情、信念)とエトス(信用、信頼)も含んでいなければならない。

  • 内面化力: 内面化では、行動を通じて形式知を具現化し、成果として新たな価値を生み出すとともに、個人レベルで新たな暗黙知として体得する。さらなる思索と行動によりモデルや物語を実践して、形式知を個人の内面にスキル化し、繰り返し、仮説の引き出しの質量を増やすことで、「見たことがある」という既視感(デジャヴ)を豊かにする。そして、戦闘の生み出す不確実性と矛盾を止揚すべく、実践のただ中でよいよいモデルや物語を生み出していく。
  • 非認知スキル: IQで測れる「認知スキル」ではなく、やり抜く力、自制心、意欲、社会的知性、感謝の気持ち、楽観主義、好奇心など。「よい習慣」によって伸ばすことができる。
  • 最上級のエキスパートになると、ダイナミックな状況対応は意識過程の消滅した主客未分の瞬間的な自動反応で行う。海兵隊では、そのような無限の熟練をめざす「職人道」を組織的に実践している。

  • フロネシス: 実践と客観的知識を綜合するバランス感覚を兼ね備えた賢人の知恵ないし美徳。敵の殲滅という単純な目的だけでなく、多くの人が共感できる善い目的を掲げ、同時に地に足のついた個々の文脈の中で、「よりよい」判断を下すことができ、目的の実現に向かって俊敏に行動する性向を備えた人物がもつ能力。
  • 実践的賢慮(フロネティック)リーダーシップ: ①善い目的をつくる能力、②ありのままの現実を直観する能力、③場をタイムリーにつくる能力、④直観の本質を物語る能力、⑤物語を実現する能力、⑥実践的賢慮を組織化する能力

  • 組織成果―知的資本: 一般的に知的資本には、特許やライセンス、データベース、文書、ルーティン、スキル、社会関係資本(愛、信頼、安心感)、ブランド、デザイン、組織構造や文化が含まれる。海兵隊にとって最も重要な知的資本は、ルーティンとしての型や文化であろう。型とは、状況の文脈を読み、綜合し、判断し、行為につなげるために、個人や組織がもっている思考・行動様式の本質を躾にしたもの。
  • 海兵隊の型は、組織の構成員に深く刻み込まれた無意識の行為、プロセスとしての運動感覚という暗黙知として定着している。この運動感覚という暗黙知が組織的に共有されているために、危機的状況においても、論理や官僚的手続きなしに、すべての階層において状況に即応した行動がとれるようになっている。
5.海兵隊の知的機動力モデル
  • 主観と客観の総合の中核は、「我―汝」関係の相互主観性(共観)を生み出すプラットフォーム(場)をダイナミックに創発させることにある。最初に主観があるのではない。他者との関係性の相互作用プロセスから共観が成立して、そこではじめて主観が成立す。われわれが一番わからないのは、自分自身であり、他者との相互主観による共感を通じて「自己認識」ができるのだ。「我―汝」関係、すなわち個人が他者と真摯に向きあい身体を通じて共振・共鳴・共感することによって「相互主観」が生成される。
  • 組織の心: 知識、そしてそれを生み出す心というのが、人間の身体的経験、そしてその場の時間や社会的、物理的環境とはきり離せない関係にあることを理解しつつ、そこから得られる「海兵隊の組織としての心」という枠組みを通してダイナミックに創造、共有し、仲間と連動し合えている。
6.おわりに
  • 動的二項態: 知的機動力は、「二項対立」ではなく、「動的二項態」という概念が基盤となっている。二つの相反しながらも相互補完的な性質を持つ要素は、両極の一方のみが正しいのではなく、どちらも一面的に正しいのであり、両者を相互作用させながら文脈に応じて両者の重点配分を変えつつ、ダイナミックに実践し、有効であることを実証してこそ真理である、というプラグマティックな考え方。異なる両極の相互作用から新しいモノやコト、画期的なモノやコトのシステム(すなわちイノベーション)が生まれるのである。
  • 海兵隊は、認識軸では組織の客観と個人の主観を結ぶチームの相互主観、行動軸では組織理念としての共通善を目指す理想主義と実践で必須の現実主義の中庸である理想主義的現実主義など、一見相反する二つの要素を組織的に相互作用させながら巧みにダイナミックな中庸を創造・実践しているのだ。
  • 知的機動力は、組織成員一人ひとりの心と体を一つにすることで組織が一つの心と体を持って環境に棲みこむ、すなわち「組織・環境一心体」になることで実現できる。
第2部 『ウォーファイティング』(翻訳)

第1章 戦争の本質
第2章 戦争の理論
第3章 戦争の準備
第4章 戦争の遂行