ダイアローグ160812

原点は「われわれのミッションは何か?」


[この本に学ぶ]
『プロフェッショナル
の条件~いかに成果をあげ、成長するか
P.F.ドラッカー著
ダイヤモンド社(2000年)


「はじめて読むドラッカー」シリーズ三部作の第1作「自己実現編」。本書は、ドラッカーの著作の中から「一人ひとりの人間に関わる領域」の論考を精選し、抜粋・再構成したものです。

ドラッカーは「社会」と「マネジメント」の2つの世界をときに重ね合わせ、ときに交叉させながらさまざまな論考を展開してきたが、その根底には一人ひとりの人間がある。関心の中心は常に、自由で責任ある社会における一人ひとりの人間の位置づけと役割と尊厳にある。それとともに、社会の機関としてだけでなく、一人ひとりの人間の成果と貢献と自己実現のための道具としての組織の機能にある――との理解から、「一人ひとりの人間」に関わる論考を採り上げたものです。

内容の詳細は下掲の「NOTE」に譲るとして、本サイトの中心テーマである「経営理念」の視点から言及すると――。

ドラッカーが「経営理念」をきわめて大切なものと位置づけていることは、彼のマネジメント思想の真髄を表わす「5つの質問」の第1番目に「われわれのミッションは何か?」を挙げていることからも明らかですが、本書『プロフェッショナルの条件』においても、この点は、マネジメントに関わるさまざまな活動領域における要諦として、以下のように述べられています。
  • 組織は、変化に対応するために高度に分権化する必要がある。なぜならば、意思決定を迅速に行わねばならないからである。
  • 成果をあげるためには、意思決定の数を多くしてはいけない。重要な意思決定に集中する必要がある。個々の問題ではなく、根本的なことについて考えなければならない。問題の根本をよく理解して決定しなければならない。不変のものを見なければならない。
組織の分権化を進め、意思決定の迅速化を図る。そのために必要とる「不変のもの」。それが経営理念に他なりません。
  • 知識労働の生産性の向上を図る場合にまず問うべきは、「何が目的か。何を実現しようとしているか。なぜそれを行うか」である。
「何が目的か」。それを明確に定めて共有を図るのが経営理念です。
  • 信頼するということは、…リーダーの言うことが真意であると確信をもてることである。それは真摯さという誠に古くさいものに対する確信である。リーダーが公言する信念と行動は一致しなければならない。少なくとも矛盾してはならない。…リーダーシップは賢さに支えられるものではない。一貫性に支えられるものである。
リーダーに求められる信念や一貫性。その源泉となるのが企業理念。経営理念はリーダーシップを高める上でも不可欠なものであることが分かります。




1. いま世界に何が起こっているか
1.1. ポスト資本主義社会への転換
  • 知識とは常に「存在」に関わるものだったが、「行為」に関わるものとなった。知識は資源となり、実用となった。
  • 第一段階: 知識は100年(1750~1850)にわたって道具、工程、製品に適用された。『百科全書』は、技能に関するあらゆる知識を体系的にまとめ、徒弟にならなくとも技能技術者になれることを目指していた。テクノロジー(技術)が発明された。その結果、産業革命が生まれた。マルクスの階級闘争、共産主義がもたらされた。
  • 第二段階: 1880年~第二次大戦末期。テイラーによる「生産性革命」が始まった(1881)。
  • 第三段階: 第二次大戦後。知識は知識そのものに適用されるようになった=マネジメント革命。知識とは、効用としての知識、社会的、経済的成果を実現するための手段としての知識。マネジメントとは、成果を生み出すために、既存の知識をいかに有効に適用するかを知るための知識である。
  • 新しい社会は、専門知識と専門家たる知識労働者を基礎として構成される。そして彼らに力が与えられる。しかしそのとき、価値やビジョンや信条に関わる問題、すなわち、社会を社会とし、一人ひとりの人生を意味あるものにすることに関わるあらゆる種類の問題が生じる。さらに、まったく新しい問題が生ずる。専門知識の社会において、真に教育ある人間の要件は何かという問題である。
1.2. 新しい社会の主役は誰か
  • 個々の専門知識はそれだけでは何も生まれない。他の専門知識と結合して、初めて生産的な存在となる。組織の目的は、専門知識を共同の課題に向けて結合することにある。
  • われわれは、組織社会にいかなる課題が存在するかをすでに知っている。それは、安定を求めるコミュニティと変化を求める組織の間の緊張であり、また個人と組織の間の緊張であり、両者の間の責任の問題である。これらの緊張は、一つひとつの組織において解決しなければならない問題である。
  • 組織は、変化に対応するために高度に分権化する必要がある。なぜならば、意思決定を迅速に行わねばならないから。しかもそれらの意思決定は、成果と市場に密着し、技術に密着し、さらには、イノベーションの機会として利用すべき社会、環境、人口構成、知識の変化に密着しておこなわなければならない。
  • 今日の先進社会の特性であり、力の源となっている社会の多元性は、単一目的の専門化した無数の組織が機能することによって、初めて可能となる。それらの組織は、専門化した独立の存在として、社会やコミュニティの全体についてではなく、狭い範囲の使命、ビジョン、価値観をもつとき、初めて大きな成果をあげる。
  • かくして我々は「誰が共同の面倒をみるか」という課題に直面する。
2. 働くことの意味が変わった
2.1. 生産性をいかにして高めるか
  • 肉体労働については、資本と技術は生産要素である。しかし知識労働については、もはやそれらは生産手段であるにすぎない。資本と技術が仕事の生産性を高めるか否かについては、知識労働者がそれらを使って何をいかにするかにかかっている。仕事の目的や、使う人の技量にかかっている。
  • 「より賢く働くこと」こそが、生産性向上の主役である。肉体労働に関しては、それが重要な鍵である。知識労働に関しては、それが唯一の鍵である。具体的には次のようなことが大切になる。
    1. 目的の定義: まず問うべきは「何が目的か。何を実現しようとしているか。なぜそれを行うか」である。
    2. 目的への集中: 知識労働を実際に組織で行っている人たちは、仕事や給与にはほとんど関係がなく、かつ、ほとんど意味のない余分な仕事を課されて、忙しさを着実に増大させている。…当然、生産性は破壊される。動機づけも士気も損なわれる。
    3. 仕事の分類: 知識労働には大きく分けて3種類あり、その仕事がいずれの範疇に属するかを知っておく必要がある。1)成果が純粋に「質」によって計られる仕事、2) 「質と量」によって計られる仕事、3)「質」は前提条件であり、ほとんどは「量」によって計られる仕事
    4. 仕事のプロセス: 働く人たちとのパートナーシップを大切にすることは、肉体労働にとっては最良の方法であるが、知識労働にとっては、唯一の方法であって、他の方法はまったく機能しない。「指示」を与えるだけでなく、「問いかけ」をすることが大切。
    5. 継続学習: 生産性の向上には継続学習が不可欠
    6. 教える組織: 知識労働者は自らが教えるときにもっともよく学ぶ。いかなる組織も、「学ぶ組織」であるとともに「教える組織」にもならねばならない。
2.2. なぜ成果があがらないのか
  • 知識労働者が生み出すのは、知識、アイデア、情報である。それらの生産物は、それだけでは役に立たない。従って知識労働者は、自らの成果を他の人間に供給することが必要となる。
  • 知識労働者はすべてエグゼクティブである。仕事の目標や基準や貢献は、自らの手の中にある。知識による権威は、地位による権威と同じように正統かつ必然のものである。彼らの意思決定は、本質的にトップの意思決定と変わらない。
  • 組織に働く者の置かれている状況は、成果を上げることを要求されながら、それがきわめて困難になっている。通常彼らは、自分ではコントロールできない4つの大きな現実にとりまかれている。
    1. 時間はすべて他人にとられる。身体の動きに対する制約を考えれば、組織の囚人と定義せざるをえない。
    2. 自ら現実の状況を変えるための行動をとらないかぎり、日常業務に追われ続ける。
    3. 組織で働いているという現実がある。すなわち、他の者が彼の貢献を利用してくれるときにのみ、成果をあげることができるという現実である。
    4. 組織の内なる世界にいるという現実がある。誰もが自らの属する組織の内部をもっとも身近で直接的な現実と見る。たとえ組織の外を見たとしても、厚くゆがんだレンズを通している。
  • 組織は成長するほと、特に成功するほど、組織に働く者の関心、努力、能力は、組織の中のことで占領され、外の世界における本来の任務と成果が忘れられていく。
  • 成果をあげる人間のタイプなどというのは存在しない。成果をあげる人に共通しているのは、自らの能力や存在を成果に結び付けるうえで必要とされる「習慣的な力」である。
2.3. 貢献を重視する
  • 成果を上げるためには「貢献」に焦点を合わせなければならない。あらゆる組織は3つの領域における成果を必要する。
    1. 直接の成果: 企業における売上や利益のような経営上の業績
    2. 価値への取り組み: 組織における明確な目的づくり
    3. 人材の育成: 
  • 自らの貢献に責任をもつ人は、その狭い専門分野を真の全体に関係づけることができる。それが、ゼネラリストについての意味ある唯一の定義である。
  • 「貢献」に焦点を合わせることにより、人間関係は生産的なものとなり、良い人間関係をもつことができる。
    1. 仕事において貢献する者は、部下たちが貢献すべきことを要求する。「組織、及び上司である私は、あなたに対しどのような貢献の責任をもつべきか」「あなたに期待することはなにか」「あなたの知識や能力をもっとよく活用できる道は何か」を聞く。こうして初めて、コミュニケーションが可能となり、容易に行われるようになる。
    2. 横へのコミュニケーション、すなわち「チームワーク」が可能となる。「私の生み出すものが成果に結び付くためには、誰がそれを利用してくれなければならないか」との問いが、命令系統の上でも下でもない人たちの大切さを浮き彫りにする。
    3. 「組織の業績に対する自らのもっとも重要な貢献は何か」を自問することは、事実上、「いかなる自己啓発が必要か」「なすべき貢献のためには、いかなる知識や技能を身につけるべきか」などを考えることになる。…知識労働者は、自らに課せられる要求に応じて成長する。
3. 自らをマネジメントする
3.1. 私の人生を変えた七つの経験
  • シュンペーターが死の直前に語った話から3つのことを学んだ。
    1. 人は、何によって人に知られたいかを自問しなければならない。
    2. その問いに対する答えは、歳をとるにつれて変わっていかなければならない。
    3. 本当に知られるに値することは、人を素晴らしい人に変えることである。
  • 成果をあげる秘訣は、「いくつか簡単なことを実行することである」。
    1. ビジョンをもち、努力を続ける
    2. 仕事には誇りを持ち、完全を求める
    3. 日常生活の中に継続学習を組み込む
    4. 自らの仕事ぶりの評価を、仕事そのものの中に組み込む
    5. 自らの強みを知る。改善や変更や学習しなければならないことを知る
    6. 新しい仕事が要求するものについて徹底的に考える。
    7. 以上のすべての前提として、自らの啓発と配属に自らが責任をもつ
3.2. 自らの強みを知る
  • 最高のキャリアは、あらかじめ計画してできるものではない。自らの強み、仕事の仕方、価値観を知り、機会を掴むよう用意した者だけが手にできる。
3.3. 時間を管理する
  • 成果をあげる者は仕事からスタートしない。時間からスタートする。計画からもスタートしない。何に時間がとられているかを明らかにすることからスタートする。…あらゆるプロセスにおいて、成果の限界を規定するものは、もっとも欠乏した資源である「時間」である。
  • 「ルーティン化」とは、有能な人が経験から学んだことを、体系的かつ段階的プロセスにまとめてしまうことである。
3.4. もっとも重要なことに集中せよ
  • 成果をあげるための秘訣を1つだけあげるならば、それは「集中」である。…集中とは、「真に意味あることは何か」「もっとも重要なことは何か」という観点から、時間と仕事について、自ら意思決定をする「勇気」のことである。
  • 優先順位の決定についての原則:
    1. 過去ではなく未来を選ぶこと
    2. 問題ではなく機会に焦点を当てること
    3. 横並びではなく自らの方向性をもつこと
    4. 無難で容易なものではなく、変革をもたらすものに照準を合わせること
4. 意思決定のための基礎知識
4.1. 意思決定の秘訣
  • 成果をあげるためには、意思決定の数を多くしてはいけない。重要な意思決定に集中する必要がある。個々の問題ではなく、根本的なことについて考えなければならない。問題の根本をよく理解して決定しなければならない。不変のものを見なければならない。
4.2. 優れたコミュニケーションとは何か
  • コミュニケーションについての4つの原理
    1. 聞く者がいなければ、コミュニケーションは成立しない:
      コミュニケーションは受け手の言葉を使わなければ成立しない。
    2. われわれは知覚することを期待していることだけを知覚する:
    3. コミュニケーションは常に、受け手に対し何かを要求する: 
      受け手が何かになることを、何かをすることを、何かを信じることを要求する。コミュニケーションは、それが受け手の価値観や欲求や目的に合致するとき強力となる。それらのものに合致しないとき、まったく受け付けられないか、抵抗される。
    4. コミュニケーションと情報は別物である:
      両者は依存関係にある。コミュニケーションは知覚であり、情報は論理の対象である。情報は、感情、価値、期待、知覚といった人間的な属性を除去するばするほど、有効となり信頼性を高める。しかし、情報はコミュニケーションを前提とする。情報の送り手と受け手の間に、あらかじめ何らかの了解つまりコミュニケーションが存在しなければならない
  • 目標と自己管理によるマネジメントこそ、コミュニケーションの前提である。…コミュニケーションを成立させるには経験の共有が不可欠である。…コミュニケーションは、私からあなたへ伝達されるものではなく、われわれの中の一人から、われわれの中のもう一人へ伝達されるものである。組織において、コミュニケーションは手段ではない。それは組織のあり方の問題である。
4.3. 情報と組織
4.4. 仕事としてのリーダーシップ
  • リーダーシップは、カリスマ性に依存しない。リーダー的資質、リーダー的特性なるものも存在しない。ならば、リーダーとは何か?
  • 第一の要件: リーダーシップを「仕事」と見ること 
    効果的なリーダーシップの基礎とは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に定義し、確立すること。リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者である。
  • 第二の要件: リーダーシップを、地位や特権ではなく「責任」と見ること 
    真のリーダーは、人間のエネルギーとビジョンを創造することが、自らの役割であることを知っている。
  • 第三の要件: 信頼が得られること 
    信頼するということは、リーダーの言うことが真意であると確信をもてること。リーダーシップは賢さに支えられるものではなく「一貫性」に支えられるもの。
4.5.  人の強みを生かす
4.6.  イノベーションの原理と方法
  • イノベーションに必要な「なすべきこと」
    1. イノベーションを行うためには、機会を分析することから初めなければならない
    2. イノベーションとは、理論的な分析であるとともに、知覚的な認識である。
    3. イノベーションに成功するには、焦点を絞り単純なものにしなければならない。
    4. イノベーションに成功するには、小さくスタートしなければならない。
    5. イノベーションに成功するには、最初からトップの座をねらわなければならない。
  • イノベーションにとって「なすべきでないこと」
    1. 凝り過ぎてはならない
    2. 多角化してはならない
    3. 未来のためのイノベーションを行おうとしてはならない
  • 成功するイノベーションの条件
    1. イノベーションは集中でなければならない
    2. イノベーションは強みを基盤としなければならない
    3. イノベーションはつまるところ、経済や社会の変革を目指さなければならない。
  • イノベーションに成功する者は保守的である。彼らはリスク志向ではない。機会志向である。
5. 自己実現への挑戦
5.1. 人生をマネジメントする
5.2. “教育ある人間”が社会をつくる
  • テクネが専門知識となった今日、それは一般知識として位置づけられなければならない。…知識社会に知識の女王はいない。あらゆる専門知識が同じように価値をもつ。すべての専門知識が真理にいたる。専門知識を真理すなわち一般知識への行路とすることは、専門知識を有する人たちの責任である。
  • われわれの知識はますます専門化していく。したがって、われわれが真に必要するものは、多様な専門知識を理解する能力である。そのような能力をもつ者が、知識社会における「教育ある人間」である。
5.3. 何によって憶えられたいか
  • 自らの成長のためにもっとも優先すべきは卓越性の追求である。組織に働く者にとっては、自らの成長は、組織の使命と関わりがある。それは、仕事に意義ありとする信念や献身と深い関わりがある。…誰もが自らに対し「組織と自らを成長させるためには何に集中すべきか」を問わなければならない。
  • 成功の鍵は「責任」である。自らに責任を持たせることである。あらゆることがそこから始まる。…責任ある存在になるということは、自らの総力を発揮する決心をすることである。…責任に重点を置くことによって、より大きな自分を見られるようになる。
  • 今日でも私は、「何によって憶えられたいか」を自らに問い続けている。これは、自らの成長を促す問いである。