[この本に学ぶ]
『ドラッカー入門(新版)』
上田惇夫/井坂康志著
ダイヤモンド社(2014年)
ドラッカーの『マネジメント』を読んだのは、もうずいぶん昔のこと。とりわけ深い感銘を受けることもなく、長らく本棚の片隅で眠っていたのですが、『なぜ名経営者は石田梅岩に学ぶのか?』『江戸商人の思想』を通じて、江戸商人が培ってきた思想はドラッカーの思想を先駆けたものであったことを知り、改めて読み直してみました。
今回まず手に取ったのは、この本『ドラッカー入門(新版)』。ドラッカーは“マネジメントの父”あるいは“マネジメントの発明者”とも称され、マネジメントの専門家との印象が強い。が、ドラッカーは自身を「観察者」あるいは「社会生態学者」と考え、生涯を通じて人間の本質、社会の本質を広く深く見つめ続けた。そしてより良い社会をつくるためにはどうすればよいかと考えた末、その手段として編み出したのが「マネジメント」という方法だった。
つまり「マネジメント」は、ドラッカーの思想体系の中にあっては方法論・実践論の部類に属するものであり、ここからいきなり入ったのでは本質や全体像が掴めない。というわけで、まずはドラッカー思想の全体を俯瞰するために紐解いたのが本書、という次第です。
結果は、目からウロコの一言。私が長らくモヤモヤした視界の中で探り続けてきたさまざまな問題に対する見事な答案が、ここにはズバリと書かれていた。昔『マネジメント』を読んだ時、オレはいったいどこに目を付けていたんだと、大いに恥入ったほどでした。
そしてさらに、僭越ながら正直に告白すると、ドラッカーが生涯を通じて挑んできた問題に対する視点の持ち方と解決へのアプローチは、「エッ!オレが考えていたことと同じじゃん」と思わず口をついてしまうもの。まさに「我が意を得たり」の心持ちでした(ちなみにドラッカリアン=ドラッカーの熱狂的なファンには、私と同じような感想を持つ人が多くいるらしい)。
いわく「産業社会は、高度な組織を通じて実現される社会である点で、ポストモダンの社会である。そこでは個が組織を通じて成果をあげることで社会の秩序が創造される。個は多元的に組織を使いこなし、組織を通じて自らの力を発揮して成果をあげる」。「さらには組織を通じて個の位置づけと役割も創出される。個は組織を通じて社会における市民たりうる」
「マネジメントは社会的な機関として、国家や政治から企業、NPO、部活、個人まで適用すべきものである。個を社会的な目的のために生かし切る、成就させることがマネジメントの存在理由である」
産業社会における組織と個人のあり方に関するこれらの見解は、私が「馬渕文筆事務所の経営理念」で言及する考え方にまさに符号するもの。私としては、現代社会最高の哲人ともされるドラッカー先生のいわば“お墨付き”をいただいたつもりで、当所が掲げる経営理念を粘り強く実践していこう、との意を改めて強くした次第です。

※本書はノートを取ろうとするとほとんど全ページを書き出すことになる、それほど凝縮された内容が濃い本のため、「NOTE」は省略します。