[この本に学ぶ]
『本当のブランド理念について語ろう 「志の高さ」を成長に変えた世界のトップ企業50』
ジム・ステンゲル著
阪急コミュニケーションズ(2013年)
著者のジム・ステンゲルは、P&Gの元グローバル・マーケティング責任者。同社に25年間在籍し、ジフ、クリスコ、カバーガール、マックスファクター、パンパースなどの主要ブランドを次々と再生。ブランド王国P&Gの地位を築いた、まさにその立役者です。2008年同社を退職してジム・ステンゲル・カンパニーを設立。ブランド理念に関するコンサルティングを行っています。
本書は、そんなステンゲル氏が、P&G時代ならびにその後のコンサルタントとしての実務経験を通じて「確信」するに至ったブランド経営理論を余すところなく開陳している、実践的良書です。
著者の言説がきわめて高い説得力を持つのは、何よりも著者がP&Gのブランド・マネジャーとして、数々のブランドを次々と再生させきた輝かしい「実績」を持ち、すべてが実務経験に基づくものだということ。本書にはいわゆる文献からの引用はいっさいなく、すべてが著者自身の経験に基づく言葉によって組み立てられています。
そしてその核をなす概念が、「ブランド理念の木」として示される「5つのルール」。①ブランド理念を発見する ②企業文化を構築する ③理念を伝達し、共有する ④理念に沿った顧客体験を提供する ⑤理念に照らしてビジネスと社員を評価する、というきわめてシンプルな5つのルールです(詳細は下掲のNOTEご参照)。
著者いわく、この5つのルールに従って実践を積めば、あらゆる業種のあらゆる企業は飛躍的に成長を遂げうる――それほど確信に満ちたものとして、著者はこの5つのルールを位置づけており、事実、本書では、この5つのルールに関する記載が、さまざまな実例を通じて繰り返し繰り返し述べられます。そしてそこで語られることは、すべて著者自らが実際に修羅場をくぐり抜けながら体得してきたことだけに、深く首肯させられることばかりです。
本書の原題は、’Grow --How Ideals Power Growth and Profit at the World’s Greatest Companies’. 邦題で用いられている「ブランド理念」は、実はIdealの訳語であり、これは当事務所で定義するところの「経営理念」(≫理念のフレームワーク)に他なりません。
そのIdealのエッセンスが、本書の扉ページに掲げられていますので、そのまま引用します。
IDEALS[理念]
- 21世紀に企業やブランドが成功するためのカギを握る要素
- 社員に始まり顧客にいたるまで、企業やブランドが関わるすべての人々を末永く味方につけ、連帯させ、行動の背中を押し続ける唯一の手段
- 市場で競争力を得るためにビジネスリーダーが活用できる最も強力な道具
- 企業やブランドの根本的な存在目的
- 社内の人々がいだく中核的信念と、その企業やブランドが奉仕する人々が重んじる基本的価値観を結びつける要素
- 社会的責任や利他主義に基づく行動にとどまらず、“人々の生活をよりよいものにする”ことを通じて利益をあげ、成長を実現するための基本方針

ステンゲル研究の4つの発見
- 発見1:ブランド理念は、最も急速に成長を遂げているビジネスの原動力である。
- 発見2:最も急速に成長を遂げているビジネスは、人間にとって大切な5つの基本的価値のいずれかに関わるブランド理念をもっている。
- 喜びを感じさせる
- 結びつくことを助ける
- 探究心を刺激する
- 誇りをかき立てる
- 社会に影響を及ぼす
- 発見3:最も急速に成長を遂げているビジネスを動かすのは、ビジネス・アーティスト(ブランド理念を主たる表現手段として用いるリーダー)である。
- ビジネス・アーティストたちには、いくつかの活動に卓越しているという共通点がある。
ブランド理念の木
- ブランド理念を土台とした成長システムは、下図のような5本の枝をもった1本の木に喩えることができる。
[ルール1]ブランド理念を発見する
ブランド理念は、言葉ではっきり表現すること[ルール2]企業文化を構築する
- 人々の行動の背中を押せるブランド理念を掘り起こし、それを実践する
- 自分が何を大切にしているかを社内外にはっきり伝える
- 達成したい目標のために組織を設計する
- チームを整備する。それも迅速に
- あらゆるタイプのイノベーションを後押しする
- 高い基準を設定する
- 常にスタッフをトレーニングする
- 象徴的な活動を行い、人々の興奮を生み出す
- 勝者のように考え、勝者のように行動する
- どういう「遺産」を残したいかを意識して行動する
[ルール3]理念を伝達し、共有する
- コミュニケーションが成長の重要な原動力であると認識する
- コミュニケーションの行い方を考える際は、人と人との関係を参考にする
- コミュニケーションの質を測る際は、愛情ある人間関係の質を測るときと同じ基準を用いる
- 社外のパートナーにコミュニケーション戦略をゆだねる際は、個々の依頼業務ごとに、簡潔明瞭に、相手のやる気をかきたてるような指示を与える
- 対内、対外のコミュニケーション・システムを設計する際は、創造性とスピードと効率性を最大限高めることを目指す
[ルール4]理念に沿った顧客体験を提供する
- ブランド理念から出発する
- イノベーションに人間味を持たせる
- 多くの人とコラボレーションを行う
- イノベーションのポートフォリオをもつ
- 持続的イノベーション/商業的イノベーション/破壊的イノベーション
[ルール5]理念に照らしてビジネスと社員を評価する
- そのブランドの未来にとって最も重要な顧客や利害関係者との関係で、ブランド理念の実現状況を評価する
- ブランド理念を基準に、重要業績評価の指標を選ぶ
- ブランド理念の推進に貢献することを全社員の職務計画の一部とするよう義務づけ、ブランド理念に照らして社員の個人成績を評価する
- 顧客や消費者と接する時間を測定し、そういう活動を奨励する