[この本に学ぶ]
『ブランド論 無形の差別化をつくる20基本原則
』
デービッド・A・アーカー著
ダイヤモンド社(2014年)
前回
に引き続きデービッド・A・アーカーの著作です。ブランディングに関するアーカー教授の邦訳本はこれまで全部で6冊刊行されており、本書はその最新刊にあたります。時系列で書きだすと、『ブランド・エクイティ戦略』(1994年)、『ブランド優位の戦略』(1997年)、『ブランド・リーダーシップ』(2000年)、『ブランド・ポートフォリオ戦略』(2005年)、『カテゴリー・イノベーション』(2011年)、そして本書『ブランド論』(2014年)の6冊です。

本書は、上記書籍に加え、氏が各種媒体に発表したブランディング分野の多岐にわたる膨大な文献をもとに、とりわけ有用なブランディングの考え方と実践方法をとことん煮詰め、「20の基本原則」としてコンパクトにまとめたもの。氏の最新理論を網羅的・概括的に把握するには最適の本だといえます。
前回ならびに前々回の本欄でも触れましたが、「経営理念」と「ブランド(とりわけ組織ブランド)」とは非常に密接な関係にある。例えばブランド・ビジョンをつくる際、そのベースとなる価値観は経営理念で定義されたそれに整合している必要がある。でないと、ブランド価値を効率的に構築することは決してできません。経営理念とブランドとは相互に影響を及ぼし合うものとして捉えていくことが大切だと思います。
そうした前提のもと、ブランドは、製品やサービスなど数量化が容易なものとの結び付きが深く可視化がしやすい。社員や事業パートナーなどからも成果が比較的見えやすい。という意味で、理念経営を推し進めるうえで極めて有力な方法論ともなりうるものだと私は理解しています。
下掲のNOTEでは、「経営理念」と関係の深い4つの章の要点を書き出していますが、なかでも「第13章 一貫性が勝利をもたらす」との認識は、経営理念に直結するところ。ブランド・ビジョンを一貫性をもって実施する――それを可能にするのは、揺るぎなき基本理念(基本的価値観+基本的目的)に他ならないからです。

第3章: ブランド・ビジョンを生み出す
- ブランド・ビジョン: そのブランドに「こうなってほしい」と強く願うイメージをはっきりと言葉で説明したもの。つまり、顧客や関係者(社員や事業パートナーなど)の目から見たとき、そのブランドが表してほしいと願うもの
- ブランド・ビジョン・モデル: ブランド・ビジョンを生み出すための構造的なフレームワーク
- ブランド・ビジョンは、6~12個のビジョン・エレメントによって構成される
- コア・ビジョン・エレメント:最も訴求力を持ち、違いを際立たせる2~5個
- 拡張・ビジョン・エレメント:その他のエレメント
- ブランド・ビジョンは高い理想を追うものであり、現在のブランド・イメージと違ってもいい。それは、現在および将来の事業戦略から考えて、そのブランドが今後持つべきブランド連想である。
- ブランド・エッセンス: 社内情報伝達のコンセプト。ブランド・ビジョンの中心的テーマを表し、そのブランドが掲げる高い理想を傘下にまとめる「傘」としての役割を果たす。
- ブランド・ポジション: 対外的な情報伝達のキャッチフレーズ。何を、どのような聞き手に向けて、どのような論理で伝達するかを表す。
- ブランド・ビジョンをつくるプロセスは下図(※)のように示すことができる。
※本書には当該概念図が掲載されていないため、ここでは『ブランド優位の戦略』に掲載されているものを使用する。なお本図で使われている「ブランド・アイデンティティ」の用語は、本書においては「ブランド・ビジョン」と言い換えられている。
第5章: 組織とその大いなる目標が差別化をもたらす
- 競合ブランドが真似できないもの、それは「組織」だ。組織のメンバーや文化、伝統的活動、資産、能力などは、唯一無二であるがゆえに真似できない。
- 組織を代表し、組織の原動力となるのはその価値観。サービス提供組織や法人向け組織にとっては、とりわけ大きな意味を持つ。
- 「組織としてのブランド」という見方は、顧客関係に以下の3つの方法で貢献できる可能性をもつ
- 価値提案を支援する
- エンドーサーとして信頼性を与える
- 大いなる目標を生み出し、顧客関係の基盤とする
- 組織の大いなる目標に心を動かされた顧客は、その目標を一緒に支援する“ファミリー”の一員になりたいと願う。
- 組織の価値観のうち、以下の7つの価値観は、組織の推進力として何度も繰り返し使われてきている。
- 知覚品質
- イノベーション
- 顧客への配慮
- 成功実績や企業規模
- 地元回帰
- 環境保護活動
- 社会貢献活動
- 組織の価値観を市場に伝え、信認を得るのは非常に困難なこと。以下のような工夫が求められる。
- 組織の価値観を体現する製品・サービスを生み出すか、もしくは既存の製品・サービスを利用してそれを体現させる。
- ブランド名を冠し、人から注目されるような、中身のある活動をうまく根付くように企画する
第13章: 一貫性が勝利もたらす
- 一貫性が勝利をもたらす理由
- ブランドは、どのようなものであれ、それが定着するまでには時間を要する
- 長期間にわたる一貫性あるブランド・プログラムは、特定のポジションの実質的な所有権をブランドにもたらす
- どのような変化であれ、変化はそれまで築き上げてきたものを薄めてしまう可能性がある
- 一貫性はコスト面で効率的
第14章: 社内向けブランディングがカギとなる
- 強力な社内向けブランディングは以下のようなメリットを生む
- 明解で説得力のある社内向けブランディングは、社員と事業パートナーに方向性と意欲を与える。
- 社内向けブランディングによって社員に刺激を与えれば、創造的で画期的なブランド構築プログラムを発見・導入させる可能性を高めることができる
- 強力なブランドが社員基盤を活性化すると、彼らはブランドについて他人に語りたいと思うようになる。
- 大いなる目標を含むビジョンのあるブランドは、仕事上の意義と達成感さえも社員に与える見込みが大きい
- 社内向けブランド戦略の活性化によって、戦略とその実践の基盤となる組織文化を支援できる