[この本に学ぶ]
『ブランド優位の戦略』
デービッド・A・アーカー著
ダイヤモンド社(1997年)

アーカー教授は、ブランディングに関連したさまざまな概念を確立し、それらの主要なものはほぼこの2冊に納められています。なかでも最もベースとなる「ブランド・エクイティ」の概念は1冊目に詳しく紹介されているのですが、残念ながら邦訳のクオリティに問題があり、一方、2冊目の第1章には1冊目のサマリーが収録されているため、ここでは2冊目にあたる『ブランド優位の戦略』を取り上げました。
本書で興味深いのは、「日本企業のブランド戦略」について言及された第4章。日本企業は他国とはかなり異なった見地からブランド戦略を見ているという指摘ですが、それは一言でいえば、日本企業は「製品ブランド」ではなく「企業ブランド」に重点を置く、ということです。(詳細は下掲NOTEご参照)
アーカー教授の一連の著作のなかで、「製品ブランド」と「企業ブランド」とは、明確に区分されたものとしてではなく、ともに「ブランド」が備える各種の性質を共通に持つモノとして描かれている。お互いがお互いに影響を及ぼし合う、いわばシームレスな関係のものとして捉えられているのですが、そんななか、日本においては「企業ブランド」の意識のされ方が諸外国に比べて極端に高い、というのは非常に興味深い指摘だと思いました。
本サイトではこれまで江戸商人の思想などを採り上げながら“老舗大国・日本”の背景を探ってきましたが、そこには「のれん」を守ることを何よりも大切にする家族主義経営の伝統があった。そうしたDNAが生み出しているのが、「企業ブランド」へのこだわりと理解して間違いないのではないでしょうか。

- ブランド・エクイティとは
- ブランド・エクイティとは「ブランドの名前やシンボルと結びついた資産(または負債)の集合」であり、製品やサービスによって企業やその顧客に提供される価値を増大(または減少)させる。その「主要な資産」は次のように分類される。
- ブランド認知
- ブランド・ロイヤルティ
- 知覚品質
- ブランド連想
- ブランド・エクイティの各資産は、極めて様々な方法により以下のような価値を創造する。
- 日本企業のブランド戦略
- 日本企業は外国の企業とはかなり異なった見地からブランド戦略をみており、次のように特徴をもつ
- 企業イメージに夢中で、それにとりつかれてさえいる
- 社名を幅広い様々な製品に付し、その企業ブランドを究極のレンジ・ブランドとする
- 顧客や潜在顧客にブランド・アイデンティティが及ぼす対外的影響だけでなく、従業員や将来の従業員になりそうな人にブランド・アイデンティティが及ぼす対内的影響にも関心を示す
- イメージへの脅迫観念: 日本企業が重点を置くアイデンティティの次元は企業間で著しく類似し、以下のような特徴を示す
- [革新性]日本の消費者は、先進的な技術水準でリードする企業を称賛する。多くの日本企業は、革新性の知覚に及ぼす悪影響を考慮して、模倣製品の導入を注意深く避けようとする。
- [成功とリーダーシップ]日本人は、成功していてよく名の知られた企業と取引したいと考える。最高のものと付き合いたいと考える。
- [善良な企業市民]環境に対して責任を持つ良き企業市民であると証明することに関心をもっている。
- [理念の拡大]製品やサービスに関わるものからは遠くかけ離れた問題や価値観に焦点を当てることで、自分たちの組織を人格化することに積極的である。
- 対内的な焦点: 日本企業は、従業員が自分たちの企業に誇りを感じることを極めて重大なことだと考えている。
- 広がる企業ブランド: 日本では、企業はその名前をあらゆるところにつける。
- 企業ブランド・ファミリーの永続性: 日本においては、企業が売却されることはめったにないため、企業とその製品構成は真の永続性をもつ。