ダイアローグ160522

不確実性の時代に飛躍する


[この本に学ぶ]
『ビジョナリーカンパニー④ 自分の意思で偉大になる』
ジム・コリンズ/モートン・T・ハンセン著
日経BP社(20012年)


本書は『ビジョナリーカンパニー』第1巻・2巻に続き、筆者が、偉大な組織の条件をさらに明らかにしようとしたもの(第3巻は「衰退」の理由を探っていて異なる流れにある)。大きな違いは、前作までの高成長や卓越さといった指標に加え、今回は置かれた経営環境の厳しさも指標に加えて分析が行われた点にあります。

具体的には、不確実な時代、さらにはカオスの時代に突入してもなお躍進する企業が存在するのはなぜか。予期できない、制御もできない状況下でも際立った業績を挙げている企業は、すぐに悪化する企業とどこが違うのか――その秘密を明らかにしようとしたのが本書です。

そして本書でもまた、「10X型リーダー」ならびに彼らの行動パターンに見られる「狂信的規律」「実証的創造力」「建設的パラノイア」といった新しい概念が提示されているのですが、これらは第1巻・2巻で述べられた諸概念と矛盾するものではなく、それらをさらに細部において補強する概念として示されている、ということが出来ます。

第4巻で展開される新しい概念の概要はNOTEのとおりですが、これらもやはり、根本には「一貫性」をいかにして維持していくかという課題があり、それを実現していくための手法のバリエーションと位置づけられる。その意味で、『ビジョナリーカンパニー』シリーズ全5冊が説く概念の根本には、「一貫性」の土台となる「基本理念」がある、と理解することができます。

※第1・2・4巻で示された諸概念の全体像を整理したものを≫こちらに掲載しています。



  • 10X型リーダー
    • 「10X型リーダー」とは、本書の調査で浮かび上がった勝ち組リーダーを指す造語。業界の平均値を最低でも10倍以上上回る成長を達成していることを意味する。
    • 10X型リーダーは「制御」と「制御不能」を同時に受け入れる能力を備えている。外部環境は「制御不能」であり、それが将来的にどう変わるかも予測できない、と認識している。一方、自分の運命を「制御」するのは自分であり、それに対しては全面的に責任を負うべきと認識している。
  • 10X型リーダーは、主要行動パターンとして「狂信的規律」「実証的創造力」「建設的パラノイア」の3点セットを備えている。
    • 二十マイル行進~狂信的規律
      • 「二十マイル行進」とは、長期に及ぶ長距離行進に挑むとき、どんな状況下でも1日20マイルのペースを維持するような行動を執ることであり、10X型企業に見られる特性。
      • 二十マイル行進を実践するには、長期にわたって並はずれた一貫性を保って「工程表」に準拠しなければならない。
      • どんな困難な道のりを歩んでも、どんな突発的なショックに見舞われても、二十マイル行進を徹底する。これを実践することにより「成果を出せるかどうか決定づけるのは、自分が置かれた状況ではなく、自分が打ち出す行動」であると自ら証明できる。
    • 銃撃に続いて大砲発射~実証的創造力
      • 「銃撃に続いて大砲発射」とは、火薬の在庫が限られた環境下で敵をいかに攻撃するかの比喩的表現。
      • 10X型リーダーは、何が実際に有効なのか検証するため銃撃戦に頼る。実証的な有効性を確認したうえで大砲を発射し、そこに経営資源を集中させる。このように大きな賭けにでることで大きな成果を狙う。
      • どんな環境下でも、脱落せずに競争し続けるために最低限達成しなければならない「イノベーションの閾値」がある。いったん閾値を超えれば、それ以上のイノベーションにこだわってもあまり意味がない。
      • 閾値を超えたイノベーションに「想像力と規律の融合」を組み合わせることが肝要。これを組み合わせると、並はずれた一貫性をもってイノベーションを展開できる。
      • 10X型リーダーは、変化や出来事を予測できるわけではない。天才的な予言者ではなく、実証主義者である。
    • 死線を避けるリーダーシップ~建設的パラノイア
      • 「建設的パラノイア」とは、非常な警戒心(パラノイア=妄想症)をテコにして準備を徹底し、建設的な手を打つ10X型リーダーの行動パターンを指す造語。良い時でも悪い時でも決して警戒を怠らず「いつなんどき逆風に見舞われてもおかしくない」と考え続ける。
      • 10X型リーダーは、自ら定めた目標に異常なほどこだわると同時に環境変化に対して細心の注意を払う。「ズームアウト」に続いて「ズームイン」を行う二重レンズの素質を備えている。
  • 具体的で整然とした一貫レシピ ~SMaCレシピ
    • 10X型企業の驚異的な成長を生み出した具体的手法に「SMaCレシピ」がある。SMaCは「具体的である(Specific)」「整然としている(Methodical)」「そして(and)」「一貫している(Consistent)」の頭文字を使った造語。
    • SMaCレシピは、戦略上の概念を現実の世界へ適用するための業務手順。具体的でありながらも同時に永続性のある業務改善法のパッケージだといえる。