[この本に学ぶ]
『ビジョナリーカンパニー③ 衰退の五段階』
ジェームズ・C・コリンズ著
日経BP社(2010年)
『ビジョナリーカンパニー』では、その第1巻(1995年)で「永続する偉大な企業を築き上げるには何が必要か」を、第2巻(2001年)で「凡庸な企業が偉大な企業に飛躍するときのカギになった要因は何か」を明らかにしてきましたが、この第3巻(2010年)は、「かつて偉大だった企業の衰退はどのようにして起こったのか」、その背景に潜む法則を明らかにしようとしたものです。
筆者はこれを「衰退の五段階」(下掲の「NOTE」ご参照)という枠組みによって捉えおり、その衰退のプロセスを病に喩えて次のように言います。「初期の段階には発見するのが難しいが、治療するのはやさしい。後期の段階には発見するのは簡単だが、治療は難しい。組織は外形をみれば強力だと思えても、内部では病が進行していて、急速な衰退に向かう瀬戸際の危うい状態になっている場合がある」。
第3巻は本サイトの主題である「経営理念」に直接関係する新たな概念の提示は特にないため詳述には及びませんが、要は「基本理念を維持し、進歩を促す」というビジョナリーカンパニーの大原則から外れた行動が執られるところに衰退が始まり、深化することを改めて明らかにしている、と理解することができます。

強大な企業がいかに衰退するかを示す段階的な枠組み。第一段階~第五段階の順に進んでいく。
- 第一段階:成功から生まれる傲慢
- 人々が高慢になり、成功を続けるのは自分たちの当然の権利であるかのように考えるようになり、当初に成功をもたらしてきた真の基礎的要因を見失ったとき、第一段階がはじまる。
- 第二段階:規律なき拡大路線
- 規模を拡大し、成長率を高め、世間の評判を高めるなど、経営人が「成功」の指標だとみるものはなんでも貪欲に追求する。
- 当初に偉大さをもたらしてきた規律ある創造性から逸脱し、偉大な実績をあげられない分野に規律なき形で進出するか、卓越性を維持しながら達成できる以上のペースで成長するか、この両者を同時に行う。
- 第三段階:リスクと問題の否認
- 内部では警戒信号が積み重なってくるが、外見的には業績が充分に強いことから、指導者は悪いデータを小さく見せ、良いデータを強調し、曖昧なデータは良く解釈する。上に立つものは後退の原因として外部要因を指摘するようになり、自分で責任を引き受けようとはしない。
- 第四段階:一発逆転の追求
- 第三段階に出てきた問題とリスク・テークの失敗が積み重なって表面化し、企業の急激な衰退が誰の目にも明らかになる。さまざまな特効薬が一発逆転の「特効薬」だとされ、当初は業績が良くなったようにみえるかもしれないが、長続きしない。
- 第五段階:屈服と凡庸な企業への転落か消滅
- 第四段階で行った巨費を投じた再建策がいずれも失敗に終わったことから、財務力が衰え、士気が低下して、経営者は偉大な将来を築く望みをすべて放棄する。