[この本に学ぶ]
『ビジョナリーカンパニー【特別編】』
ジェームズ・C・コリンズ著
日経BP出版センター(2006年)
『ビジョナリーカンパニー【特別編】』は、『ビジョナリーカンパニー② 飛躍の法則』の追補編として発行されたもの。第1巻(1995年)ならびに第2巻(2001年)が共に「企業」を対象として書かれたものであるにも関わらず、非営利法人など社会セクターの読者から多くの関心が寄せられたという事実に鑑み、第2巻で展開された「飛躍の法則」を社会セクター向けにアレンジし直した内容となっています。
企業セクターを想定して書かれた「飛躍の法則」は、社会セクターにとっても果たして有効か? この問いに対する著者の答えは、「決定的な違いは企業セクターと社会セクターとの間にあるのではない。偉大な組織と良好な組織との間にあるのだ」と、その原則しての有用性は確信しつつも、詳細については直面する事実に即して変更を加える必要があるとして、本書ではその内容が詳らかにされています(変更内容の概要は下掲の「NOTE」ご参照)。
そして筆者は、社会セクターが“偉大な組織”となることの意義を次のように語っています。「偉大な企業があるだけでは、繁栄する社会を実現できるとしても、偉大な社会にはならない。経済の成長と力は、偉大な国を作るための手段にすぎず、それだけで国が偉大になるわけではない」

社会セクターにおける「飛躍の法則」の特徴
- 「偉大さ」の定義と計測
- 実績を示すものとして、一般的に使われる指標が少ない。金銭はインプットであるだけで、アウトプットはない。財務上の収益によってではなく、組織の使命に照らして実績を評価する。
- 第五水準のリーダーシップ
- 統治の仕組みが複雑で曖昧な場合が多い。権限が分散していて、あまり明確になっていない。リーダーシップを発揮しているといえるのが、指導に従っている人たちに従わない自由があるときだけだとするなら、真のリーダーシップを発揮している場合が多い。
- 最初に人を選ぶ
- きわめて大きな利点がある。崇高な仕事、金銭を超える意味を求める人たちの思想主義的な情熱を引き出しやすい点である。しかし、人材を獲得し維持するのに使える資源が不足していることが多い。終身身分保証制度やボランティアの仕組みのために、不適切な人をバスから降ろすのが困難な場合がある。
- 厳しい現実を直視する
- 「思いやり」の文化によって、厳しい現実を率直に認めるのが妨げられることが多い。全体的な状況という制約によって、最後にはかならず勝つとの確信がもてなくなることがある。「全体的な状況を改善しなければ、偉大な組織になれない」と考える。
- 針鼠の概念
- 社会と人びとの必要を満たし、利益を得られる価格では販売できないものを提供することに存在意義がある。針鼠の概念のうち第三の円は、経済的原動力から資源の原動力に変わり、時間、資金、ブランドで構成される。社会セクターには経済的原動力に大きな違いがあり、すべての組織に共通する単一の経済指標はない。
- 規律の文化
- 社会に役立つ活動を行いたいという気持ちと、寄付や資金の提供者の個人的な希望によって、規律に欠ける決定を下しかねない。反面、成長のために成長を求める圧力があまりなく、幹部の貪欲という問題もあまりないので、これらによって規律に欠ける行動にながれる危険は少ない。
- 弾み車を回し、悪循環を避ける
- 最高の実績をあげた組織に資源を組織的に配分する効率的な資本市場がない。それでも、成功を収めてブランドを築いた組織は弾み車効果を強められる。人は成功している動きを支えたいと望む。
- 時を告げるのではなく、時計をつくる
- 支援者は個別のプログラムやカリスマ的指導者に資金を提供して、「時を告げる」動きを優遇することが多く、持続する組織を築くための寄付には消極的である。
- 基本理念を維持し、進歩を促す
- 使命と基本的価値観に対する情熱は大きな利点だが、同時に、伝統や大切な慣行を変えるのをむずかしくする要因でもある。成功の度合いを評価し、進歩を促すのに使える簡単な指標が少ない。