――経営理念は組織の生産性を高める、というのは本当か?
本当です。経営理念が組織内に深く浸透することは、組織の生産性を飛躍的に高めることに繋がります。
理由は明らかです。経営理念とは、組織における価値基準を明らかにし言葉として示すもの。「何が正しく、何が間違っているか」を明確にした上で、しかもそれが「コロコロと変わることなくずっと続く判断基準ですよ」というお墨付きを与える効果をもたらします。
つまり経営理念とは、法治国家における憲法や法律にあたるもの。社員は、この基準に沿って考え行動しさえすれば、会社から決して咎められることはない。もし仮に咎めらた場合でも、上司に対し「私は経営理念に沿った行動を執っている。なのになぜ、あなたは反対するのか。間違っているのは、逆にあなたの方ではないか」と堂々と反論ができるわけです。
これに対し、経営理念が浸透していない組織、つまり価値体系が明確に言語化されていない組織にあっては、社員は常に上司の顔色を窺い窺いながら仕事をすることになる。社員は課長の、課長は部長の、部長は役員の、役員は社長の顔色を、いつもいつも眺めながら仕事をするわけで、なかなか結論がでない。当然のことながら、生産性は著しく低下します。
経営理念による法治主義に対し、後者はいわば人治主義。価値判断の基準が、独立した形ではなく、きわめて俗人的な状態になっているということです。
そしてそれは「現在」の生産性ばかりでなく、「未来」に向けての生産性をも著しく低下させることに繋がります。経営理念が確立している組織にあっては、社員は自己研鑽など未来に向けてのさまざま準備を心おきなく進めることができるのに対し、俗人的な価値判断の下に動いている組織にあっては、社員は何をどう準備すればよいのか、さっぱり分からない。「上司が替われば、方針もまたガラリと変わる」という状況の下、社員は未来への準備を放棄せざるをえないからです。