ダイアローグ160310

家政/互恵/交換/再分配


――私たちは会社経営を通じて経済活動を行っているわけだが、そもそも「経済」とは何なのか? 人々にとってどんな意味をもつ活動なのか。


経済は「経世済民」の略であり、そのそもそもの意味は「世を経(おさ)め、民を済(すく)う」ということ。今日ではEconomyの訳として非常に限定的な意味で使われていますが、私は今日でもなお、それは「経世済民」の思想に基づくものであらねばならないと考えています。「企業理念」からは少し離れた話題となりますが、企業活動の基盤となる「経済」とはそもそも何かという問題を、ここで押さえておきたいと思います。

私は、「経世済民」を意訳して、経済とは「人々が助け合うシステム」だと理解しています。人はひとりでは生きられない。だからさまざまな方法によって助け合い、支え合って生きていかねばならないわけであり、それらの活動を総称したのが「経済」だという理解です。

そしてその「助け合いのシステム」には、大きく分けて次の4つがある。①家政 ②互恵 ③交換 ④再分配の4つです。

①は家族や親族による助け合いのシステム。②は友達や地域社会などによる助け合いのシステム。③は市場を通じた助け合いのシステム。そして④は政府を通じた助け合いのシステムです。またこれらの4つは「マネー」を基準に分類すると、①と②はマネーによらない助け合いのシステム。③と④はマネーを使った助け合いのシステム、ということになります。

そして何より大切なのは、これらの4つを最適バランスで組み合わせることにより、より安定した、安心して暮らせる社会を作ること。①から④の方法にはそれぞれの特長や得手不得手があるわけですから、それらを上手に組み合わせる、ということです。

③交換の特長は、マネーという道具を使うことにより、きわめて広い空間領域ならびに時間領域において、知らない人どうしの間でも助け合いを可能にすること。しかしながら、それを可能とする「流動性の高さ」というマネーの特長は、両刃の剣であって、大きな副作用を私たちの社会にもたらしている。それが前々回(≫160307)に指摘した「バラバラな個人の集合体」と化した世界の姿だといえます。

マネーの特長である、流動性の高さを生み出す仕組み。それは「精算」です。AさんがBさんに対して提供した価値は、それに見合うマネーが「対価」としてBさんからAさんに支払われることによって「チャラ」になる。友人どうしのような貸し借りや持ちつ持たれつの状態は存在せず、取引の都度、精算される。つまり関係性を断ち切ることによって、流動性が担保される、という仕組みです。

③交換の肥大化は、このまま放置しておくと大変な事態を招くことになる。世界のバラバラ化、そしてその結果として生ずる文化崩壊をいっそう加速するからです。

こうした事態を救うのが、「共同体」としての企業であり、それを可能とする最も効果的なアプローチが「経営理念」に他ならない、というのが私の考えです(≫160307)。