[この本に学ぶ]
『
一勝九敗』
柳井 正 著
新潮文庫(2006年)

Ⅰ 家業からの脱皮
- 会社とは?: 会社とは本来、つねに実体がなく、非常に流動的で、永続しない可能性の強いものなのだ。…会社とは一種のプロジェクト、期限のあるもの、と考えるべきではないだろうか。…会社は期限があるものであるがゆえに、環境変化に対応して絶えず変化させていかなければ生き残ってはいけない。
- ユニクロの急成長とは?: ユニクロの急成長は、あくまで企業理念を実現しようとして、全社一丸となって精一杯努力した結果であり、ブームは会社側でコントロールできるものではない。
- 株式公開を目指す: 安本先生の指導で、譲らなかったのは経営理念だ。…絶対に必要な理念なので、一つが欠けてもダメ、他社が少ないのは当社とは関係ない…会社で働く社員全員がこの理念に心底共感し、共通認識として持って欲しい考え方だ。
Ⅱ 挑戦と試行錯誤
- 商売人から経営者へ: 商売人は、売ったり買ったりすること自体が好きな人。…経営者とは、しっかりした目標を持ち、計画を立て、その企業を成長させ、収益を上げる人のことだ。
- フリースのテレビコマーシャル: 視聴者に敬意を表していないものでは、言いたいことは伝わらない。…ユニクロの広告は視聴者に敬意を表して、見ている皆さんのインテレクチュアルな部分に頼るものにしたい。一方的に伝えるのではなく結果的にきちんと「伝わる」ようにしよう。…当社の商品であるカジュアルウエアももちろん同じだ。…品質を高める努力は、お客様への敬意に他ならない。…広告は実質がともなっていないと、広告そのものが無駄になる。…広告は実質とのターボエンジンみたいなものだ。
- 人材は経営者の手足ではない: 各業務、各部門の「手足」が同時に「頭脳」でなければうまく仕事が回らないし、完結しないはずだ。
- 一千億円の壁: 「作った商品をいかに売るのではなく、売れる商品をいかに早く特定し、作るかに業務の焦点を合わせる」「マーケティングを徹底し、マーチャンダイジングと連動して“売れる理由”を売り場で表現することに全エネルギーを集中する」。お客様の視点での改革は、お客様に一番近い場所である店舗の考え方の改革ということに行きつく。本部が偉いのではなく、お客様との接点の最前線である現場こそが重要なのだ。
- 何でも言い合える雰囲気: 会社と個人が緊張感ある対等の関係をもつわれわれの会社は…日本社会で持続されてきた旧来の会社と個人の関係を根本的に変えることで、“会社の発展”と“個人の幸福”を同時に実現させたいと考えている。その目的を達成するために日々改革を進めているのだ。
Ⅲ 急成長からの転換
- 翌年からのフリースブーム: 広告宣伝というのは零点か百点しかない。…中途半端なものは埋没し絶対に到達しない。「到達」とは視聴者が共感してくれて、われわれが考えていることが伝わり、結果が思いどおりになるということだ。
- ぼくが伝えた最大のポイントは「ユニクロはあらゆる人が良いカジュアルを着られるようにする新しい日本の企業です」というブランドアイデンティティ。「服に個性が必要なのではなく、服はそれを着る人が着こなして初めて個性を発揮するもの」ということ。
- 二十三条の経営理念: 経営理念を作った理由は3つ。①違った考えの人が違ったやり方で仕事をやり始めると、個々の仕事はよいかもしれないが、全体的にまとめるとバラバラで効率が悪い部分が出てくる。それをできるだけ少なくしたい。②会社としての考え方をはっきりさせる。人が会社を選ぶのと同時に、会社も人を選ぶ必要がある。そのためにはまず、会社も個人も「自分はこういう考え方だ」と明確に示す必要がある。③自分は何のために会社で仕事をしているのかという原点を忘れず、仕事を「惰性で」しないように。
- 急成長企業は危ういか: 明確な経営理念をもち、経営者からすべての社員に至るまでそれを価値観として共有し、行動する。われわれは社会に対してこういう良いことをやっているのだ、という想いが誇りにつながる。
- 組織内の人がすべて同期化し、組織の境も無くす: 常時同期化するというのは、あらゆるモノに「判断基準」や「評価基準」があって、全員に周知徹底されていて、やった仕事の結果も全部、皆で共有されていること。すべての人たちが、一人ずつ“自営業者”としてその会社にコミットする。その大前提として、経営に対する考え方、経営理念が明確に示され、経営者が何を考え、何を実行しているのかもオープンになっていることが必要だろう。
Ⅳ 働く人のための組織
- 店長は会社の主役だ: 当社の店長とは、知識労働者だと考えている。店舗という場所で、自分たちの力で付加価値を付けていく人。
- 中途半端なゼネラリストやスペシャリストは必要ない: 自分はこの仕事に特化してこれで生きていく、という意志がない限り、付加価値は生まれてこない。…そういうスペシャリストなら、必ずゼネラリスト的な興味や意欲が湧いてくるものだ。
- チームを組む秘訣は: チームを組むには、まず、明確な目的や目標が必要だ。…そして、それぞれのポジション、つまり役割が大事である。与えられたポジションで、自分がその責任範囲を果たせるだけの能力を持たなければいけない。さらに大事なことは、それぞれの同僚や監督の技量や性格を知ることである。
- 株主資本主義: 本来の会社の持ち主は、やはり株主だと思う。株主とはいわば会社のオーナーであり、オーナーであれば利益はもちろん会社のお客様や従業員を大切に思うのは当然のことだ。
- 他人に評価されることで人は働く: 人が仕事をする上で、大きな動機となるのは、正当に人に評価されるということだ。
Ⅴ 失敗から育てる次の芽
- 成功の中に潜む失敗の芽: 新しいものが生み出せなかったのは、成功に酔った「勘違い」によるところが大きかったと思う。組織が大きくなっていくと、今度は安定を求めるようになる。…安定を求めるのではなく、不安定さのなかで革新を求める方が良いと思っている。
- お客様の方をしっかり向いて、全員で仕事をしなければならないのに、管理職が部下の仕事ばかりチェックしているようになると、お客様のことは二の次になり、やがて忘れてしまう。…現場と距離が離れれば離れるほど、仕事のための仕事をわざわざ作り出す危険性もある。
- 組織のなかで肯定することと否定することが渦を巻いて、組織全体が揺れているような、そんな状態が望ましい。…あっちへ揺れ、こっちへ揺れることによって、その次はどこへ行くのかというエネルギーを発散したり貯めたりすることが組織にとっては大事なことなのだ。…客観性と主体性のバランスをいかにとっていくか、が商売の神髄なのだ。
二十三条の経営理念
- 顧客の要望に応え、顧客を創造する経営
- 良いアイデアを実行し、世の中を動かし、社会を変革し、社会に貢献する経営
- いかなる企業の傘の中にも入らない自主独立の経営
- 現実を直視し、時代に適応し、自ら能動的に変化する経営
- 社員ひとりひとりが自活し、自省し、柔軟な組織の中で個人ひとりひとりの尊重とチームワークを最重視する経営
- 世界中の才能を活用し、自社独自のIDを確立し、若者支持率No.1 の商品、業態を開発する、真に国際化できる経営
- 唯一、顧客との直接接点が商品と売場であることを徹底認識した、商品・売場中心の経営
- 全社最適、全社員一致協力、全部門連動体制の経営
- スピード、やる気、革新、実行力の経営
- 公明正大、信賞必罰、完全実力主義の経営
- 管理能力の質的アップをし、無駄を徹底排除し、採算を常に考えた高効率・高配分の経営
- 成功・失敗の情報を具体的に徹底分析し、記憶し、次の実行の参考にする経営
- 積極的にチャレンジし、困難を、競争を回避しない経営
- プロ意識に徹して、実績で勝負して勝つ経営
- 一貫性のある長期ビジョンを全員で共有し、正しいこと、小さいこと、基本を確実に行ない、正しい方向で忍耐強く最後まで努力する経営
- 商品そのものよりも企業姿勢を買ってもらう、感受性の鋭い、物事の表面よりも本質を追求する経営
- いつもプラス発想し、先行投資し、未来に希望をもち、活性化する経営
- 明確な目標、目的、コンセプトを全社、チーム、個人が持つ経営
- 自社の事業、自分の仕事について最高レベルの倫理を要求する経営
- 自分が自分に対して最大の批判者になり、自分の行動と姿勢を改革する自己革新力のある経営
- 人種、国籍、年齢、男女等あらゆる差別をなくす経営
- 相乗効果のある新規事業を開発し、その分野で No.1 になる経営
- 仕事をするために組織があり、顧客の要望に応えるために社員、取引先があることを徹底認識した壁のないプロジェクト主義の経営